人から借りた車に乗って、行く先を明かさずに進む家族。この旅の目的には何やらシリアスな事情がありそうだ。
いったい何処へ?何のために?と不穏さを感じながらその旅路を見守る。
両親と長男が抱えているであろう複雑な事情をよそに、幼い次男はたいへん無邪気でとにかく元気に過ごしている。
やんちゃすぎて時々怒られながらも、両親もこの子が可愛くて仕方ないんだろうな、この子の存在に救われているんだろうなというのが随所に伝わってきて微笑ましい。
このやんちゃ君を演じた子のナチュラル感が凄くて、これはほんとに演技なのか??と驚愕してしまうほど。凄い。そしてなんてチャーミングなんだ。
作中、印象的な場面が幾つかあるけど、母と長男が映画の話をするシーンが好きだった。
「世界一の映画は?」という問いに何と答えるのかな?と思ったら、私も好きなあの作品の名前を挙げていて納得。
それと、次男と父が草原に寝そべって話してるシーンでは、一つ…また一つと星が…の演出のインパクトも良かった。
そして終盤の、あるやり取りを映し出す引きのロングショットでの演出もまた凄くてしみじみ感動してしまった。それぞれの必死な想いややるせなさが伝わる名場面。
広大な景色を捉える構図もいちいち印象的で美しくて、並みじゃないセンスを感じる。
そして音楽の使いかたも。歌詞にメッセージや家族の想いを乗せる。
ラストはあのやんちゃな次男が歌っている演出にもまた驚きつつ、あとからじわじわと凄いものを観たな…という余韻が押し寄せてきた。
『人生タクシー』の巨匠ジャファル・パナヒ監督の長男であるパナー・パナヒ監督の初長編作ということだけど、これはほんとに凄いデビュー作ですね。今後も楽しみです。