想

オッペンハイマーの想のレビュー・感想・評価

オッペンハイマー(2023年製作の映画)
3.5
●危惧していた内容ではない。
原爆の父と呼ばれるオッペンハイマーの伝記的な作品であるものの、決してアメリカ万歳的な映画でも、原爆を肯定する映画でもありませんでした。
むしろ真逆で、その恐ろしい発明や残虐行為を肯定することの危険性がしっかりと描かれていた印象です。
ロバート·ダウニー·Jr.演じるストローズとの対立を軸に描く事で、オッペンハイマーを英雄視も悲劇の主人公にもしないという、全体的な構図も良かった。

●破滅的な終焉へ向かう世界への警鐘
一方的な正義による戦争という愚かな行為を、真っ向から否定するような反戦映画でもありました。
今まさに人類が直面している、悲劇的な終焉に向けてのカウントダウンが、この映画の内容自体と重なり、とにかく絶望的な気分に陥ります。危機感を持つことの重要性が伝わってきました。

●観るにあたり、覚悟は必要
原爆を初めて知ったのは、小学生の頃に図書館で読んだ『はだしのゲン』でした。
幼な心ながらにとてつもない衝撃を受け、全巻借りて読破。それからは本能的に原爆について知らなければいけないという使命感に駆られ、当時の写真集や被爆者の手記などを読み、感想文を書いたりもしました。
だからといって、被爆された人々の苦しみや遺族の方々の悲しみを理解出来たつもりではありません。しかし、唯一の被爆国の国民であるという自覚は持っています。
だからこそ、この映画の鑑賞中は胸が張り裂けそうなほど苦しくなりました。
日本公開が躊躇われた事も納得で、日本人にとってかなり辛い内容であることは間違いありません。

●映画鑑賞という観点においては◎
"音"の使い方がとにかく秀逸。
劇場が吹っ飛ぶんじゃないかと心配になる程の凄まじい大音響。
終始バックで流れる、爆発までのカウントダウンを煽る様な不穏な音楽。
ただの会話劇ですら、まるでアクションを観ているかの様な緊張感が伝わってきます。
目まぐるしく時系列をいったり来たりし、長尺でも目が離せないスリリングな展開はノーラン作品の真骨頂といったところ。
映画鑑賞体験としては非常に価値あるものだと思います。


●評価としては難しい部分も…。
全体的なテーマやメッセージ性は素晴らしいと思いますし、アメリカ国民が目を背けたくなる内容を、シニカルな切り口で描いた点も評価出来るポイントです。

…しかし、本当に正直なところ、
映画としては素晴らしかったですが、ノーランの新作として期待していたものでは無かったかな、、
個人的には、突拍子も無い物語を説得力を持たせて描くノーラン作品が好きなので。

●登場人物が多すぎて…。
歴史的な転換期を描いているので仕方ないのですが、いくらなんでも登場人物が多すぎる、、
豪華な俳優陣で引きを作っている様な印象すら受けてしまいました、、
それによって肝心なオッペンハイマーの心情の変化がいまいち伝わりきらなかったのが残念。
想