TANAKA

オッペンハイマーのTANAKAのレビュー・感想・評価

オッペンハイマー(2023年製作の映画)
4.2

今年度第96回アカデミー賞作品含む7部門を受賞したクリストファーノーラン監督の新作。
原子爆弾の開発に成功し〈原爆の父〉と呼ばれた物理学者オッペンハイマーの栄光と没落の伝記映画。

公開前から日本人にとってはセンシティブであり
その上『Barbie』とのファンアート騒動にて
バーベンハイマーとして不名誉な話題性もあり
日本公開が危ぶまれ、3月末ようやく公開。
複雑なテーマと感情により構えるのは分かるが
だからこそ公開されないというのはあまりにも
筋違いだと思っていたので公開決定にはホッとした。

今作もIMAXフィルムを存分に味わえ、
(モノクロシーンにおいて新しくフィルムを開発して使用)
時系列のミックスが的確且つ劇的にストーリーを進めていく。少し遠出をしてでもIMAX対応の劇場に行って欲しい
それがダメでも今回は音響も非常に重要な働きを
するのでDolbyシネマをお勧めしたい。

3時間にわたる彼の人生をハイテンポ且つ膨大な
情報量で見せられるのでかなりの集中力が要されるが見て損のない今年の顔となる映画なのは間違いない。
一つ、ネタバレなしで伝えるとすると正直
日本人にとって複雑に感じるシーンはあるものの
軽率さは感じず、むしろアメリカ人視点なら
当然であり(全て許容するという事でなく)その中で科学者として、人間として生み出す前と後に生じる責任と感情や立ち位置を見ていると
年代や知識量よって感じる事は人それぞれで
被爆国だからどうこうという被害者意識だけでの
作品批判はお門違いであると言いたい。
…しかしこれも一意見😂沢山の感じ方を知りたい作品。



⚠️
___________ネタバレ_______________

⚠️


圧巻の情報量と登場するキャストの数々が
目まぐるしく脳を侵食していく3時間。
理系じゃ無いので余計に疲れた…
驚いたのがIMAXで映すのがほとんど人間模様であり会話劇と言うのが面白い。
核開発に向かう【核分裂(FISSION)】での
オッペンハイマー視点のカラーパートと
開発後【核融合(FUSION)】の反対勢力
軍人ストローズ視点のモノクロパートが分けられ
序盤から散りばめられるオッペンハイマーに呼応
する素粒子のカット。眠れない夜や閃く瞬間が
積み重なりやがてトリニティ実験の成功にて視覚化される核爆発に一つカタルシスを覚える。
トリニティ実験の際の緊張感の描き方が、正に没入体験であり数年をかけ到達したその脳内方程式や理論を実体の爆弾にし天候、人員、戦時下の動き…全ての状態が爆発への予備動作になり遠くからそれを見守る実験街ロスアラモスでのワンシーン。強大な光と巨大なキノコ雲が生む爆風。
そしてワンテンポ遅れてやってくるその轟音に
座席まで衝撃が押し寄せる感覚は劇場で見てほしいシークエンスに他ならない。

成功後。こちらが気まずいシーンだが、
大歓声と拍手喝采の中オッピーが小さな壇上で
スピーチをするシーン。その拍手する群衆に
白みがかる演出と足元には灰になった人間が
彼には見える。科学者としての好奇心と欲望で
走り切った彼は人間として想像し、その事の
重大さと責任を覚えた時には主導権が無く、
どうしようもない事実と広島・長崎に落ちた結果を聞くのみだった。止まらない歓声がまるで被爆した人々のオーバーラップに思えるあのシーンがあると無いのとではかなり違っていた。ナチスより先に原爆を作り
戦争を終結させる大義が45年の4月にはヒトラーが自殺し「如何なる状況でも日本は降伏しない」だから…と言うのは米のご都合だなと改めて感じる。
偉い人の発言に「広島に落とし〜」と言われた際に「長崎にもです」と答える描写と東京大空襲の被害に言及している点もやはり誠実さは出ていたように感じる。
認めなければ始まらないと思うから。

恐らくR指定の要因である不倫の際の性描写。
不倫相手のジーンの死が彼には堪え、動揺を
キャサリンに詰められるシーンも、彼女の死への罪悪感が原爆を作った事実への罪に重なるようだった。オッペンハイマーが多面的に描かれていて人間らしかったからこそ画面いっぱいに広がる彼の焦燥や行き場のない感情の表現が映像美に勝るほど印象に残った。アインシュタインとの哀愁も世界を破壊した者だから共有できる関係性は彼の救いだった。
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