膨大なセリフ量と何十人もの登場人物、時間軸が何度も入れ替わる展開。濃厚で重厚な180分。
この映画はある程度の史実を抑えてから見たほうが楽しめると思う。予習をしても、初見ですべてを理解するのは難しい。それでも十二分に面白い。これ以上ないほどナイーブで難解なテーマを扱っているにも関わらず「面白い」と思える匠の技がある。
アマデウスのような、天才の狂気とそれに狂わされる凡人の構図。マンハッタン計画という、人類史に残るスーパーチームによるミッション。そして緊迫の法廷劇。様々な映画のフォーマットの上で、オッペンハイマーという奇特な人生を巡る伝記。
主観と客観を巧みに入れ替えながら、オッペンハイマーの善性と悪性について観客に考えさせ続ける。そして彼の苦悩を通して、核という、人類を滅ぼすことができる力が、いまもここにあるという事実の重みを突きつけていく。