ぶみ

イニシェリン島の精霊のぶみのレビュー・感想・評価

イニシェリン島の精霊(2022年製作の映画)
3.5
すべてがうまく行っていた、昨日までは。

マーティン・マクドナー監督、脚本、コリン・ファレル、ブレンダン・グリーソン主演によるアイルランド、イギリス、アメリカ製作のドラマ。
1923年、アイルランド西海岸沖のイニシェリン島を舞台に、親友から突然絶好を告げられた主人公等の姿を描く。
主人公となる男パードリックをファレル、親友コルムをグリーソンが演じているほか、パードリックの妹シボーンとしてケリー・コンドン、隣人ドミニクとしてバリー・コーガンが登場。
物語は、前述のように、コルムに突然絶好を告げられたものの、その理由が分からず右往左往するパードリックが描かれるだけ、と言っても過言ではなく、見ようによっては、子どものような大人の喧嘩がひたすら続くだけの内容。
そんな二人が、シボーンやドミニクを巻き込みながら、島という閉鎖された空間を舞台とした会話劇というスタイルで展開するが、どこに話が進んでいくのか先が全く読めず、おじさん二人が押したり引いたりする絶妙な駆け引きや、ある一言で一変する日常の光景が何とも人間らしく、終始飽きることはない。
些細なことが、お互い引けに引けなくなり、倍々ゲームかのように、あれよあれよという間に修復不可能になっていく様は、よくあることで、その究極の姿が、島の対岸にある本土で繰り広げられている内戦であるというのも何とも皮肉なところ。
ゆったりとした島時間と閉鎖された空気感の中、繰り広げられるドラマは、人間なんてこんなもの、と言われているかのようであり、悲喜交交な人生の縮図を、タイトルからは全く想像できない展開で紡ぎ出す一作。

終わりにできないものもある。
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