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イニシェリン島の精霊のnanaのネタバレレビュー・内容・結末

イニシェリン島の精霊(2022年製作の映画)
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このレビューはネタバレを含みます

「もうお前とは一切話さない」と、親友(と思っていた男)に突然別れを告げられた男。
作中でこれまでの二人を回想などで描かないため、実際は二人の仲がこの日までどんな感じだったのかは観客の想像に委ねられます。

コルムの言う、「パードリックはつまらん男だった」という件も、彼の一方的な言い分です。
パードリックがちょっと気の毒な感じも、でもコルムの言い分も分からなくもないという感じも、何せ観客はこの決別宣言の日からしか二人を見ていないので勝手にジャッジしようがないという点は、今作が上手くできているところだと思います。

残りの人生、芸術を極めるためパードリックと「別れる決心」をしたコルム。
それでも話しかけてきたパードリックの家に、自ら切り落とした指を届けてみせます。
ゴッホみたいなことになってきていますが、こういう自傷行為って「私と別れるなら今ここで死んでやる!」みたいな、一方的に相手を加害者化する自らの被害者化でかなりタチが悪い。一種の脅迫。
指を切り落としたことでもう楽器が弾けないので、元も子もない状態です。

二人の仲違いは、劇中でも描かれる島の向こう、本土で行われている内戦のメタファーともとれます。
隣同士の国こそ仲が悪くなるという世界中で起きている現象にもとれるし、恋愛の話にもとれる、普遍的な破局の物語です。
二つの死体が転がる的な予言がされ、それはパードリックとコルムのことかと思いきやロバとドミニクでした。
結局、争いの犠牲となるのは始めた当事者ではなく関係のない市井の者だという点は、戦争のことを指すのでしょう。

いろいろあった結果、二人の仲は完全崩壊したわけでも、完全修復されたわけでもなさそうです。
もう過去の二人にも戻れない。
大きな犠牲も出た。
それでも、分かり合えないからこそまたここから始まる何かもあるんじゃないかと思いたいです。
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