Sari

アウトサイダーのSariのネタバレレビュー・内容・結末

アウトサイダー(1981年製作の映画)
3.5

このレビューはネタバレを含みます

2022/03/22 名古屋シネマテーク
【タル・ベーラ 伝説前夜】にて

社会に適合できないミュージシャンの姿を描くタル・ベーラ監督長編第二作。
珍しいカラー作品で音楽も相まってタル・ベーラ作品では比較的見やすい作品。
処女作『ファミリー・ネスト』の一貫したドキュメンタリー・タッチから、酒場のダンスシーンが入ることでベーラ作品の特色が現れている。


精神病院でバイオリンを弾くアンドラーシュは得意のバイオリンを患者に奏でている。
予防接種を拒み暴れる精神病患者たちの姿が映し出される強烈な始まりだが、アンドラーシュも彼に関わる者は皆、社会不適合者ばかりである。彼らを境界なく描くことで、共産主義下の国家体制に対する絶望やハンガリーの閉鎖感、戦争に対する若きベーラの圧倒的な怒りが、処女作『ファミリー・ネスト』と本作、初期2作で浮かび上がって来る。
社会主義の縮図で生きるリアルな人間模様は、アンドラーシュを軸として彼が酒場などで出会う男たちとの長々しい対話が映し出され、特に女性との対話場面で強調されていた顔のクローズ・ショットは本作でもカサヴェテス的だった。

■以下自身のためのネタバレ覚書:
青い瞳と歯並びの悪いアンドラーシュが酒場で常連らしき男と出会う。男はクラシック音楽好きのようで、ベートーヴェンやシューベルトのウンチク話をしながら「子供を持つことは良いことだ」と2日前に子供を授かったアンドラーシュにおしゃぶりを祝の品として渡す。アンドラーシュは子供の母親を見舞うが、おしゃぶりは中古品だと彼女に突き返される。彼女と結婚する気はなく病棟で煙草を吸い始めた挙句別れを告げるが、子供は認知し仕送りをすることになる。アンドラーシュは酒癖が悪いことで精神病院を解雇されてしまう。
次に雇われたケーブル工場の、七三分け眼鏡で腹の出た同僚の男は口が達者だが、2年経っても機械操作を覚えられないと言う。アンドラーシュは笑いを堪えるが、双方とも情けなく笑えない。やがて酒場でアンドラーシュは兄のガールフレンド・カタと出会い恋に落ちすぐに結婚する。結婚式などで二人肩を組み合って踊るダンスシーンは、後に続くタルベーラのスタイルが表れている。
工場も首になり音楽学校からも追い出されフラフラしているアンドラーシュが、正装でクラシック音楽をバックに高台で指揮をとり、カメラが引いていくと部屋の片隅で一人オーケストラなのが虚しい。DJに行き着いたアンドラーシュの元にやってきて思い描く結婚生活ではなかったと不満と怒りをぶつけるカタだが、男を見る目がなさすぎる女も同様である。やがてカタは兄と復縁する。アンドラーシュの元に徴兵状が届く。
ケーブルの機械操作が出来ない七三眼鏡男が、酒場でバンドのヴォーカルを勇ましく務めているがその姿が滑稽で笑ってしまう。
酒場でクラシック好きの男が大喜びするなか、実在するらしいバンドの演奏シーンで幕を閉じるのが良い。カラー映像にエンディングでの黄色の文字が映えていた。
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