Jun潤

ボイリング・ポイント/沸騰のJun潤のレビュー・感想・評価

3.5
2022.07.27

ポスターを見て気になった作品。
クリスマス前の金曜日に賑わうロンドンの人気レストランを舞台に、妻子との確執を抱えたシェフが数々のトラブルに対応していく様をワンショットで描く。
ワンショットなんて言われたら、舞台がレストランだろうが何だろうが観ないわけにいかないじゃないですか。

人気料理店の料理長をしているアンディは、仕事に忙殺され、家族にも会えず、酒に溺れる日々を過ごしていた。
そして迎えたクリスマス前日の金曜日、衛生監査が入り、厨房の管理について厳しく細かく追及される。
アンディはスタッフに対して怒号を放ってしまうが、予約が満席のため、他のスタッフと衝突しながら宥められながら店はオープンする。
レイシストやアンディが借金をしているライバルシェフ、アレルギー発作を起こす様々な客により、アンディは次第に追い詰められていく…。

ついに洋画にもこの流れが来たか。
『ボイリング・ポイント』というのはいわゆる沸点みたいな解釈で、映画としてストーリーが描かれるとなると沸き上がるほどの仕事への情熱と思いましたが、今作開始時点で既に沸点を迎えていて、空焚き状態だったわけですね。

今作はやはり何と言ってもワンショットムービーという点でしょう。
レストランの裏側、というだけでなく、編集点など存在しない普通の日常を切り取り、仕事に忙殺されている人間の風景、追い詰められた人間の最期の瞬間までをノンストップで描いていました。

これはアンディだったから、ロンドンの高級料理店だったから、の物語ではなく、今僕がこのレビューを書いている喫茶店の裏側にも起きているかもしれない、隣の人は沸点を超えているかもしれない、道ですれ違う人は、自分の身近な人、大切な人はどうなのだろうか。
そんな日常に潜む危険性まで突いてくるスリリングでセンシティブなメッセージが、ワンショットという映画的でない表現だからこそさらに深く抉ってくる。

お客、スタッフ、鑑賞者、そしてアンディ自身でさえも、今日この日に限界が来るなんて思っていなかった。
限界、いえ、『ボイリング・ポイント』は突然やってくる。
もしくは既に沸いていることに気付いてもいない。
もしも違う曜日だったら、衛生監査と違う日だったら、今日プロポーズじゃなかったら…。
考える間も与えないワンショットでノンストップの厨房の風景を観て、終わった後にそんな“もしも”を考えてしまう、そんな作品。
Jun潤

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