耶馬英彦さんの映画レビュー・感想・評価 - 14ページ目

耶馬英彦

耶馬英彦

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ヘィ!ティーチャーズ!(2020年製作の映画)

3.5

 2020年の映画である。2年後にプーチンがウクライナ侵攻という蛮行に出ることについて、漠然とした予感があったのかもしれない。映画全体を妙に不穏な空気が包んでいる。

 本作品を観た限りでは、ロシアの
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母へ捧げる僕たちのアリア(2021年製作の映画)

4.0

 南仏の海岸の街に住む移民の4人兄弟の物語である。亡くなった父親は手先が器用で様々な仕事をした。一度も登場しないが、兄弟が父親を尊敬していることはわかる。母親は植物状態だが、その存在が兄弟をつなぎとめ>>続きを読む

神は見返りを求める(2022年製作の映画)

3.5

 心に引っかかるものがたくさんある。それはある種の感動ではあるが、心が洗われるような気分のよさではない。本作品で感じるのは「いやな感じ」だ。もちろん何も感じない作品よりはずっといい。しかしここまで人間>>続きを読む

ザ・ロストシティ(2022年製作の映画)

2.0

 全体に安っぽさが漂う。主演のサンドラ・ブロックの衣装は敢えてチープ感を出したのだろうが、プロットやストーリーといった肝腎の部分の世界観が安っぽいのはどうにもならない。職業が恋愛小説家であっても、還暦>>続きを読む

峠 最後のサムライ(2020年製作の映画)

2.0

「自由と権利、リバティとライトだな」と、唐突に英語が出てくる。福沢諭吉の著書にある言葉だと紹介されている。なるほど、河井継之助は福翁以上の西洋かぶれで新しもの好きだった訳だ。絵画も音楽も聞きかじりであ>>続きを読む

アンノウン・ソルジャー 英雄なき戦場 オリジナル・ディレクターズ・カット版(2017年製作の映画)

4.0

 とてつもなく重い作品だった。180分という長さもさることながら、登場する兵士たちが命の危険にさらされながら、常に最前線で戦い続ける緊張感に、観ているこちらまで疲れ果ててしまう。
 国内外の戦争の記録
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ナワリヌイ(2022年製作の映画)

4.0

 ロバート・ラドラムやトム・クランシーのスパイ小説を読むと、ソ連は恐ろしい国だったというイメージである。KGBやGRUがどれほど容赦のない暴力的な組織であったかが事細かに描かれていて、西側のスパイに協>>続きを読む

君たちはまだ長いトンネルの中(2022年製作の映画)

3.5

 何度か、プライマリーバランスという言葉が出てくる。悪名高き御用学者がアメリカから持ち込んだ言葉である。この似而非経済学者は相当のアメリカかぶれで、同時に市場原理主義も持ち込んで、日本を徹底的な格差社>>続きを読む

バスカヴィル家の犬 シャーロック劇場版(2022年製作の映画)

4.0

 ディーン・フジオカのいいところが全部出た作品である。頭の切れのよさを感じさせる滑舌のいい台詞回し、機敏でスタミナ抜群の身体能力。ファンはさぞ嬉しいだろう。

 ミステリーとしての話の進め方が面白い。
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メタモルフォーゼの縁側(2022年製作の映画)

4.0

 ほっこりするいい作品である。やはり宮本信子は大した女優だ。本作品での市野井雪の役割を完璧に演じ切った。
 芦田愛菜が演じた佐山うららは、何から何まで雪と対照的である。それは二人がレストランで名前を名
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百年と希望(2022年製作の映画)

3.5

 日本共産党のプロパガンダ映画だが、ちゃんとまともなドキュメンタリーになっている。その理由は長回しにあると思う。発言を切り取らずに前後の文脈も含めてひとつのシーンとすることで、発言者の人となりが見えて>>続きを読む

スープとイデオロギー(2021年製作の映画)

3.5

「私はアナーキストだからどこの政府も信じないけど」とヨンヒ監督は言う。しかし母がこれほど韓国政府を憎んでいたとは、今度のことではじめて知った。
 ヨンヒ監督の母親は北朝鮮の熱狂的な信奉者だ。その理由が
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PLAN 75(2022年製作の映画)

4.0

 角谷ミチの担当者である成宮瑶子の頭の中で不協和音が鳴り響く。成宮の横ではコールセンターの新人がレクチャーを受けている。プラン75に申し込んだ老人の気が変わらないように、うまく誘導するのがあなたがたの>>続きを読む

FLEE フリー(2021年製作の映画)

4.0

 逃げるという選択は苦しいものだ。逃げるの対義語が追う、挑む、立ち向かう、といったポジティブな言葉だけに、逃げることは如何にも否定的に感じられてしまう。
 説明責任から逃げてばかりの政治家は、たしかに
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ウェイ・ダウン(2021年製作の映画)

3.5

 政府というのは腹立たしい存在である。国家公務員の中には、自分が国民のためではなく国家のために働いていると勘違いしている人間がいて、国民から国家を守るような行動を取る。または国民の財産を奪おうとする。>>続きを読む

さよなら、ベルリン またはファビアンの選択について(2021年製作の映画)

3.5

 主人公ファビアンは極端なチェーンスモーカーで、のべつ幕なしにタバコを吸っている。タバコを吸っている時間は、我に返って醒めている時間だ。つまり一服するのは、現実から一歩引いて自分と対話することである。>>続きを読む

はい、泳げません(2022年製作の映画)

4.0

 長谷川博己が演じた哲学者で大学教員の主人公の精神世界が作品の中心で、彼以外の登場人物は類型的に描かれる。
 それはカメラワークにも現れていて、相手役となった3人の女性を真正面から撮ったシーンが多かっ
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君を想い、バスに乗る(2021年製作の映画)

4.0

 老人が主人公のロードムービーである。満身創痍の彼は、亡き妻との約束を果たすために、不自由な身体に鞭打って、イングランドの遥か最南端の町を目指す。
 バスを乗り継いでいく設定がいい。飛行機でも特急列車
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オフィサー・アンド・スパイ(2019年製作の映画)

4.0

 本作品は、嘘を吐いて他人を貶める人たちと、真実に忠実な人たちの戦いの物語である。原題はエミール・ゾラの「私は告発する」という弾劾文書のタイトルで、邦題もそのままのほうがよかったと思う。

 大抵の人
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ニューオーダー(2020年製作の映画)

4.0

 メキシコ映画らしいと言っていいのか、表現のいちいちが過激である。というか、暴力に躊躇いがない。メキシコは銃の所持が許されている国だから、人を殺すのに躊躇いがないとも言える。
 格差が限界まで広がった
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太陽とボレロ(2022年製作の映画)

1.5

 クラシックの演奏場面はそれなりだが、映画としては不出来な作品である。水谷豊監督の作品は「TAP THE LAST SHOW」や「轢き逃げ -最高の最悪な日-」がそれなりに面白かっただけに、本作品はあ>>続きを読む

ゴースト・フリート 知られざるシーフード産業の闇(2018年製作の映画)

3.5

 農業ではドイツのバイエル社(旧モンサント社=アメリカ)が、種子と種苗の知的財産権を独占して、強力な除草剤とその除草剤に耐性のある遺伝子組み換え植物(GMO)の両方を販売することで莫大な利益を得ている>>続きを読む

20歳のソウル(2022年製作の映画)

3.5

 前半は吹奏楽部版のスポ根ドラマみたいで、想定していたのと違ってあれ?と思ったが、それは後半の怒涛の展開の前フリだった。
 人生80年を4つに分割して、青春、朱夏、白秋、玄冬とすれば青春は二十歳までと
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帰らない日曜日(2021年製作の映画)

4.0

 孤児院育ちのメイドである主人公ジェイン・フェアチャイルドは「私もメイドの子供かもしれない」と言う。言っている相手は名家の子息であるポール・シェリンガムである。ふたりの格差はこのシーンに集約されている>>続きを読む

トップガン マーヴェリック(2022年製作の映画)

4.5

 映画の続編の見本のような作品である。前作から経過した36年の月日を上手に描いてみせた。登場人物は歳を取り、戦闘機の開発は日進月歩だ。しかし人の魂は変わることがなく、愛は色褪せない。

 科学の最先端
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辻占恋慕(2020年製作の映画)

2.0

 ヒロインの芸名が「月見ゆべし」とはケッサクである。「ゆべし」は全国的にバリエーションのある菓子だが、知名度は団子よりもはるかに下だ。団子は月見の際に供えることで有名なのに対し、ゆべしに有名なシチュエ>>続きを読む

グロリアス 世界を動かした女たち(2019年製作の映画)

2.0

 女性の人権活動家グロリア・スタイネムの伝記だが、グロリアの人生を描きたいのか、フェミニズム運動の歴史を描きたいのかがはっきりせず、両方とも中途半端になってしまった感がある。加えて、時系列を行ったり来>>続きを読む

ドンバス(2018年製作の映画)

3.5

 19世紀から20世紀にかけてのヨーロッパ史は、軍事技術の発展と戦争の歴史である。第二次大戦の終結をもって一応の落ち着きを得たものの、強欲なスターリンの政策によって東西の冷戦が生まれ、同一民族のドイツ>>続きを読む

ハケンアニメ!(2022年製作の映画)

4.0

 原作を知らないので、タイトルをもろに勘違いしてしまった。「ハケン」は「派遣」ではなく「覇権」であった訳だ。

 アニメは世界に誇れる日本の文化だが、徐々にその中心が外国に移りつつある。アニメーターの
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大河への道(2022年製作の映画)

4.0

 いかにも落語が元になった話らしく、笑いと涙の人情物語である。

 中井貴一はコメディアンぶりを存分に発揮しつつ、堂々たる主役を王道に演じている。流石である。松山ケンイチが珍しくおふざけのトリックスタ
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生きててよかった(2022年製作の映画)

4.0

 ロバート・デ・ニーロとクリストファー・ウォーケンが主演した映画「ディア・ハンター」を連想した。あちらは戦争とロシアン・ルーレットで、こちらは格闘技という違いはあるが、いずれも命のやり取りをしていなけ>>続きを読む

バニシング:未解決事件(2022年製作の映画)

3.5

 本作品のオルガ・キュリレンコは、映画「Les traducteurs」(邦題「9人の翻訳家 囚われたベストセラー」)のときのバッチリメイクと打って変わって、薄化粧で登場する。とはいえ、相当の美人であ>>続きを読む

流浪の月(2022年製作の映画)

4.5

 テーマは「居場所」だと思う。本作品の台詞で言えば「逃げる場所」となるのだろうか。逃げる人がいれば、逃げられる人がいる。逃げられる人は、次は逃げない人、逃げる場所のない人をターゲットにしようとする。そ>>続きを読む

マイスモールランド(2022年製作の映画)

4.0

 内容が今年(2022年)の2月に公開された映画「牛久」に直結していると感じた。「牛久」は茨城県の牛久市にある不法滞在者を収監する施設、東日本入国管理センターを描いた映画だ。
 収監施設は閉鎖的な空間
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教育と愛国(2022年製作の映画)

4.0

 随分と控えめな内容だったというのが第一印象である。井浦新の滑舌のいい落ち着いたナレーションが教育現場の危機を淡々と伝える。

 第二次大戦中に日本軍が行なったことをきちんと教えることは、戦争を反省す
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シン・ウルトラマン(2022年製作の映画)

2.0

 映画「シン・ゴジラ」を鑑賞したときのような感動を期待したが、何故かしら、何も感じなかった。樋口真嗣監督と庵野秀明さんのコンビは同じなのに、本作品には「シン・ゴジラ」にあった重厚感がない。ずっしりした>>続きを読む