耶馬英彦さんの映画レビュー・感想・評価 - 13ページ目

耶馬英彦

耶馬英彦

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サバカン SABAKAN(2022年製作の映画)

3.5

 中村雅俊が主演した「俺たちの旅」というテレビドラマがあった。テーマ曲を小椋佳が作詞作曲していて、エンディングの「ただお前がいい」の歌詞の終わりは次のようだ。

 また会う約束などすることもなく
 そ
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凪の島(2022年製作の映画)

3.5

 日常生活で凪(なぎ)という言葉を使う機会はあまりない。対義語の時化(しけ)はときどき天気予報で聞くことがある。それぞれ動詞にもなり、凪る、時化るという具合に使う。凪るは、心が落ち着くというときにも使>>続きを読む

アートなんかいらない! Session1 惰性の王国(2021年製作の映画)

3.5

 終映後のトークは「表現の不自由展」の検閲と妨害の妨害についてが殆どだったが、作品はアートとは何かという本質に迫る。
 15000年前から5000年前まで、1万年も続いた縄文文化にハマった経験からする
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劇場版 荒野に希望の灯をともす(2022年製作の映画)

4.5

 小さな巨人。その呼び名が彼ほどふさわしい人間はいなかった。寛容と思いやりが心の広さだとするなら、彼ほど心が広い有名人を他に知らない。
 彼が殺されたとき、私はブログに次のように書いた。

*****
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失われた時の中で(2022年製作の映画)

3.5

 またしても悪名高きモンサント社が登場する。農家を苦しめて世界に遺伝子組み換え作物を蔓延させることで、巨額の利益を生み出しているコングロマリットである。ベトナム戦争の枯葉剤を開発し、米軍に提供していた>>続きを読む

新章パリ・オペラ座 特別なシーズンの始まり(2021年製作の映画)

3.5

 劇場でバレエを観たことは一度もないが、本作品を観ると、何故かバレエの公演を観たような気になる。そして少し感動する。バレエ作品にではなく、ダンサーや演出家の熱意と努力に感動するのだ。

 体力の4要素
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灼熱の魂 デジタル・リマスター版(2010年製作の映画)

4.5

 ドゥニ・ヴィルヌーヴの才能がストレートに現れている傑作だ。ストーリーといい、シーンの章立てといい、わかりやすい上に、それぞれの冒頭からいきなり心を鷲づかみにしてくる。問答無用の理不尽さが画面から溢れ>>続きを読む

ストーリー・オブ・マイ・ワイフ(2021年製作の映画)

3.5

 最初はゲームのようにはじまった。短いハニームーンの後、ジェイコブは船長として数ヶ月の航海に出る。待たされるリジーと待たせるジェイコブ。心配する者とされる者、求める者と求められる者。関係性は常に相対的>>続きを読む

ぜんぶ、ボクのせい(2022年製作の映画)

3.5

 イギリスの詩人W.H.オーデンの「Leap before you look」(邦題「見るまえに跳べ」)の最後は次の一節で結ばれている。

 安全無事を祈願するわたしたちの夢は、失せなくてはなりません
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L.A.コールドケース(2018年製作の映画)

3.5

 普通に考えれば、13,000人も警察官と職員がいるロス市警の組織的な不正は、社会にとって一大事だ。それでなくても不祥事の多いロス市警である。市民が警察官を信用できなければ、社会の安全はない。
 本作
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長崎の郵便配達(2021年製作の映画)

4.0

 さだまさし(グレープ)が歌った「精霊流し(しょうろうながし)」は、静かなイメージの「灯籠流し」とは異なり、爆竹が鳴り響く派手な祭である。港町長崎らしい、各国の文化が入り混じった不思議な味わいの祭だ。>>続きを読む

ファイナル アカウント 第三帝国最後の証言(2020年製作の映画)

4.0

 ドイツ人の精神性は日本人のそれに似ている気がした。みんながやっていたからとか、命令されたから仕方なくとか、従わないと自分がやられるとか、そういった理由で自分の行為を言い訳する。どれも日本でも聞いたこ>>続きを読む

劇場版 ねこ物件(2022年製作の映画)

3.5

 猫を飼うには覚悟が必要だ。猫に対して決して怒りの感情を持たない覚悟である。猫は本能と遊びで生きている。悪意はない。赤ん坊と同じだ。赤ん坊が泣いたりグズったりしても親は怒りの感情を抱かない。もし抱くと>>続きを読む

霧幻鉄道 只見線を300日撮る男(2021年製作の映画)

4.0

 鑑賞していると、なんだか旅をしているような気分になる。個人的に今年は猪苗代湖に行き、尾瀬に行き、魚沼に行った。奥会津の真ん中を走る只見線は、猪苗代湖の西にある会津若松から魚沼を結んでいる。つまり奥会>>続きを読む

アプローズ、アプローズ! 囚人たちの大舞台(2020年製作の映画)

4.0

 フランスの俳優と受刑者の物語である。comédianはコメディアンと発音はするが、フランス語では俳優のことである。いわゆる喜劇役者はhumoriste(ユモリスト)だ。「コメディアン」という台詞を聞>>続きを読む

戦争と女の顔(2019年製作の映画)

4.0

 この8月に広島で開催される原水爆禁止2022年世界大会に先立って7月に開かれた科学者集会で、和田賢治武蔵野学院大学准教授が「ジェンダー化する安全保障」と題する講演を行なった。
 講演の趣旨は、男らし
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セルビアン・フィルム(2010年製作の映画)

3.5

 情報公開を要求したときに役所が出してくる黒塗りの文書がある。何故かそれを思い出した。日本のAVではモザイクがかけられているが、あれは黒塗り文書と一緒で、あまりよろしくない。日本ではポルノ映画でなくて>>続きを読む

魂のまなざし(2020年製作の映画)

4.0

 フィンランド共和国は人口550万人の小さな国だが、国連が発表している幸福度ランキングはこの5年連続で第1位である。民主主義社会の成熟度、教育文化レベル、福祉の充実度などがいずれも高評価となっている。>>続きを読む

デウス 侵略(2022年製作の映画)

3.5

 地球の人口が210億人に達した近未来が舞台。地球は壊れていき、人類の未来に暗雲がたれこめていくさなか、火星軌道上に突如として現われた黒い巨大な球体。その正体は何なのか。未知の球体に、人々は根拠のない>>続きを読む

1640日の家族(2021年製作の映画)

4.0

 女性だけが母乳を分泌することと関係があるのか、母性は専ら女性の特徴である。どちらかというと理詰めで考える男性に対して、女性はどちらかというと情緒を優先する。
 本作品の「マモー」は後者の典型で、何か
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島守の塔(2022年製作の映画)

4.0

 吉岡里帆がとてもいい。泥だらけのモンペ姿での演技は、化粧や衣装やライティングの助けが得られず、演技力の真価が問われたが、見事にポテンシャルを発揮してみせたと思う。
 演じた比嘉凛は、これこそ軍国少女
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グレイマン(2022年製作の映画)

3.5

 ロバート・ラドラムやトム・クランシーの小説を読むと、CIAの現場工作員は「エージェント」と呼ばれているようだ。海兵隊の特殊部隊や陸軍のデルタフォースなどからリクルートされ、訓練を受けて現場での諜報活>>続きを読む

ボイリング・ポイント/沸騰(2021年製作の映画)

3.5

 レストランの一日は、届いた食材の検品と整理からはじまる。注文通りの品が注文通りの個数と状態で届いているか。生で頼んだ肉が冷凍で届いたら、その肉は翌日にならないと使えない。肉は冷蔵解凍するのがきまりだ>>続きを読む

神々の山嶺(2021年製作の映画)

4.0

「そこに山があるからだ」という言葉(本当は「そこにエベレストがあるからだ」が正しい翻訳らしい)で有名な登山家ジョージ・マロリーの最後の登山の真相に纒わる物語である。
 マロリーはエベレスト登頂に成功し
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X エックス(2022年製作の映画)

4.0

 痛快作である。ホラー映画の被害者は、大抵が平凡な一般人に設定されている。普通の人が極限状況に追い込まれるところに感情移入するからだ。しかし本作品はそうではない。その理由はエンドロールの後でわかる。>>続きを読む

哭悲/The Sadness(2021年製作の映画)

4.0

 常識人の仮面の奥に、悪意を隠している人は多いと思う。何らかのきっかけで仮面が割れてしまうと、悪意が溢れ出す。
 本作品ではそのきっかけがウィルスということになっているが、その感染力たるやコロナウィル
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こちらあみ子(2022年製作の映画)

3.5

 アスペルガー症候群という言葉がまだ一般的ではなかった頃から変わった子供はいた。法律に違反する行為はしないものの、マナーやエチケットといった一般常識を守らないことが多くて、家族を主として周囲の人間たち>>続きを読む

破戒(2022年製作の映画)

4.5

 感動作である。流石に明治文学を代表する小説が原作だけあって、言葉の選び方、使い方が素晴らしい。単に差別を描いているだけではなく、人間の本質についての深い洞察がある。

 主人公瀬川丑松の尋常小学校の
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ソー:ラブ&サンダー(2022年製作の映画)

3.5

 2011年の第一作以来の「ソー」である。最近のマーベル映画の例に漏れず、本作品にも多分楽屋落ちのギャグが一杯あったんだろうが、不幸にしてマーベルに詳しくない当方には、あまりピンとこなかった。
 ただ
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ベイビー・ブローカー(2022年製作の映画)

3.5

「万引き家族」を鑑賞したときも思ったが、是枝監督の作品は、憎悪や無関心と対極にある、愛情深いものばかりである。俳優ともいい関係性にあるのだろう。ペ・ドゥナとは13年前の映画「空気人形」でも一緒に作品を>>続きを読む

ブラック・フォン(2022年製作の映画)

4.0

 なんだか新しい。いじめや予知夢やグロい暴力などの、ありがちなシーンが使われているホラーではあるが、全体として斬新な印象を受ける。

 まだ幼くて精神的に不安定なフィニーは、気が弱いくせに暴力的な父親
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リフレクション(2021年製作の映画)

4.0

 同じ監督による映画「アトランティス」もやはり、戦争で心身ともに傷を負った人々を描いている。本作品は、捕虜になったときの敵兵の様子や戦時中の日常を描くことで、より立体的な映画になっている。登場人物の言>>続きを読む

わたしは最悪。(2021年製作の映画)

4.0

 器用貧乏という言葉がある。何でもすぐに出来てしまう人は大成しないという意味だ。本作品の冒頭を観て、すぐにこの言葉を思い出した。ヒロインのユリアはまさにこのタイプである。何でもすぐに出来ると言っても、>>続きを読む

マーベラス(2021年製作の映画)

4.0

 文句なしに面白かった。
 バイオレンスアクション映画はハリウッドの十八番である。本作品はマギー・Qが演じる凄腕の殺し屋アナがヒロインで、師匠をサミュエル・L・ジャクソンが演じるとなれば、面白さは保証
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エルヴィス(2022年製作の映画)

3.5

 どうもエルヴィス・プレスリーという人は大スター過ぎて、少しも感情移入が出来なかった。それよりも、トム・ハンクスが演じた詐欺師のパーカー大佐の腹黒さと、嘘を吐いて平気でいることができる胆力には感心した>>続きを読む

アトランティス(2019年製作の映画)

4.0

 ウクライナ近未来の話ではあるが、出てくる屍体はウクライナやロシアの他にチェチェン共和国の兵士や義勇兵のもので、まさに現在の戦争が終結したときの話のようだ。
 登場人物の言葉数の少なさが、尾を引きずっ
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