耶馬英彦さんの映画レビュー・感想・評価 - 12ページ目

耶馬英彦

耶馬英彦

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百花(2022年製作の映画)

4.0

 シューマンの「トロイメライ」が何度も演奏される。繰り返されるのは音楽だけではない。様々なシーンが細部を少しずつ変化させて繰り返される。徐々に光が増幅されて、真実を映し出すようになる。スパイラル構造の>>続きを読む

原発をとめた裁判長 そして原発をとめる農家たち(2022年製作の映画)

4.0

 終映後の舞台挨拶で、プロデューサーの河合弘之弁護士は、原発の差し止める戦いは今後も訴訟やデモや集会を継続して行なっていく。一方で、原発に代わる自然エネルギーによる発電も進めていくと、わかりやすい主張>>続きを読む

LOVE LIFE(2022年製作の映画)

4.0

 ヒロインを演じた木村文乃は本作品のために増量したのだろうか。妙な逞しさを感じた。それに笑顔を封印したような演技である。いずれも本作品に相応しかった。

 家族関係の安定を図ろうとする一方で、夫は未練
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グッバイ・クルエル・ワールド(2022年製作の映画)

4.0

 ヤクザや半グレといった不良の中には、堅気に引け目を感じている人がいるかもしれない。非合法の仕事で得たカネでは陽のあたる道を堂々と歩けないところがある。カネはカネだと割り切る者が多いだろうが、堅気と一>>続きを読む

ブレット・トレイン(2022年製作の映画)

4.0

 寺山修司作詞、田中未知作曲の「時には母のない子のように」が流れる。カルメン・マキが歌う、当方としてはとても好きな歌のひとつである。疾走する特急を舞台にしたアクション映画でこの歌が使われたことに、新鮮>>続きを読む

地下室のヘンな穴(2022年製作の映画)

3.5

 星新一のショートショートを映画にしたような作品だ。あるいは「笑ゥせぇるすまん」か。
 アイデアはひとつだけ。地下室の穴に入って出たら12時間後になっていて、その代わりに3日間若返るというものだ。この
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デリシュ!(2021年製作の映画)

3.5

 コメディではあるが、フランス映画らしくエスプリが効いていて、権威や権力を笑い飛ばす。とてもスカッとする作品である。

 とにかく映像が大変に美しい。特に、舞い散る秋の枯れ葉が冬の雪に変わるシーンが見
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彼女のいない部屋(2021年製作の映画)

4.0

 春を待つ数カ月間の物語である。ヒロインには愛する家族がいた。思い出は浄化され、いつまでも美しい。やがて未来に向けてイメージは広がっていくが、そちらはいつも美しいとは限らない。自分も家族を疎ましく感じ>>続きを読む

この子は邪悪(2022年製作の映画)

3.5

 玉木宏の怪演が空恐ろしい。身体はゴツいのに話し方が至極穏やかというアンバランスに、底知れぬ薄気味悪さが漂う。いま世間で騒がれている旧統一教会と、洗脳みたいな面で共通していて、教祖的な雰囲気も醸し出し>>続きを読む

シーフォーミー(2021年製作の映画)

3.5

 冒頭の荷造りの場面はかなりいい。安全ピンの数で衣類を区別する工夫をしている。視覚がないから、頼りは音と臭いと触感だ。人生の途中で見えなくなった場合は、見えていたときの経験値を活かす。生まれながらの盲>>続きを読む

NOPE/ノープ(2022年製作の映画)

3.0

 ジョーダン・ピール監督の他の作品と同様、ネタバレ厳禁である。ネタバレした後の収束も他の作品と同じように手際がいいのだが、本作品はそれほどスカッとならない。
 極限状況に直面した主人公と、正常性バイア
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激怒(2022年製作の映画)

3.0

 諏訪湖に行ってきた。広さはあるが、最深部の水深が5メートルもない水溜りみたいな湖である。天竜川に流出していて、天竜川沿いには伊那や飯田があり、中央本線側には釜無川があって、富士川となる。新宿から中央>>続きを読む

サバカン SABAKAN(2022年製作の映画)

3.5

 中村雅俊が主演した「俺たちの旅」というテレビドラマがあった。テーマ曲を小椋佳が作詞作曲していて、エンディングの「ただお前がいい」の歌詞の終わりは次のようだ。

 また会う約束などすることもなく
 そ
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凪の島(2022年製作の映画)

3.5

 日常生活で凪(なぎ)という言葉を使う機会はあまりない。対義語の時化(しけ)はときどき天気予報で聞くことがある。それぞれ動詞にもなり、凪る、時化るという具合に使う。凪るは、心が落ち着くというときにも使>>続きを読む

アートなんかいらない! Session1 惰性の王国(2021年製作の映画)

3.5

 終映後のトークは「表現の不自由展」の検閲と妨害の妨害についてが殆どだったが、作品はアートとは何かという本質に迫る。
 15000年前から5000年前まで、1万年も続いた縄文文化にハマった経験からする
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劇場版 荒野に希望の灯をともす(2022年製作の映画)

4.5

 小さな巨人。その呼び名が彼ほどふさわしい人間はいなかった。寛容と思いやりが心の広さだとするなら、彼ほど心が広い有名人を他に知らない。
 彼が殺されたとき、私はブログに次のように書いた。

*****
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失われた時の中で(2022年製作の映画)

3.5

 またしても悪名高きモンサント社が登場する。農家を苦しめて世界に遺伝子組み換え作物を蔓延させることで、巨額の利益を生み出しているコングロマリットである。ベトナム戦争の枯葉剤を開発し、米軍に提供していた>>続きを読む

新章パリ・オペラ座 特別なシーズンの始まり(2021年製作の映画)

3.5

 劇場でバレエを観たことは一度もないが、本作品を観ると、何故かバレエの公演を観たような気になる。そして少し感動する。バレエ作品にではなく、ダンサーや演出家の熱意と努力に感動するのだ。

 体力の4要素
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灼熱の魂 デジタル・リマスター版(2010年製作の映画)

4.5

 ドゥニ・ヴィルヌーヴの才能がストレートに現れている傑作だ。ストーリーといい、シーンの章立てといい、わかりやすい上に、それぞれの冒頭からいきなり心を鷲づかみにしてくる。問答無用の理不尽さが画面から溢れ>>続きを読む

ストーリー・オブ・マイ・ワイフ(2021年製作の映画)

3.5

 最初はゲームのようにはじまった。短いハニームーンの後、ジェイコブは船長として数ヶ月の航海に出る。待たされるリジーと待たせるジェイコブ。心配する者とされる者、求める者と求められる者。関係性は常に相対的>>続きを読む

ぜんぶ、ボクのせい(2022年製作の映画)

3.5

 イギリスの詩人W.H.オーデンの「Leap before you look」(邦題「見るまえに跳べ」)の最後は次の一節で結ばれている。

 安全無事を祈願するわたしたちの夢は、失せなくてはなりません
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L.A.コールドケース(2018年製作の映画)

3.5

 普通に考えれば、13,000人も警察官と職員がいるロス市警の組織的な不正は、社会にとって一大事だ。それでなくても不祥事の多いロス市警である。市民が警察官を信用できなければ、社会の安全はない。
 本作
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長崎の郵便配達(2021年製作の映画)

4.0

 さだまさし(グレープ)が歌った「精霊流し(しょうろうながし)」は、静かなイメージの「灯籠流し」とは異なり、爆竹が鳴り響く派手な祭である。港町長崎らしい、各国の文化が入り混じった不思議な味わいの祭だ。>>続きを読む

ファイナル アカウント 第三帝国最後の証言(2020年製作の映画)

4.0

 ドイツ人の精神性は日本人のそれに似ている気がした。みんながやっていたからとか、命令されたから仕方なくとか、従わないと自分がやられるとか、そういった理由で自分の行為を言い訳する。どれも日本でも聞いたこ>>続きを読む

劇場版 ねこ物件(2022年製作の映画)

3.5

 猫を飼うには覚悟が必要だ。猫に対して決して怒りの感情を持たない覚悟である。猫は本能と遊びで生きている。悪意はない。赤ん坊と同じだ。赤ん坊が泣いたりグズったりしても親は怒りの感情を抱かない。もし抱くと>>続きを読む

霧幻鉄道 只見線を300日撮る男(2021年製作の映画)

4.0

 鑑賞していると、なんだか旅をしているような気分になる。個人的に今年は猪苗代湖に行き、尾瀬に行き、魚沼に行った。奥会津の真ん中を走る只見線は、猪苗代湖の西にある会津若松から魚沼を結んでいる。つまり奥会>>続きを読む

アプローズ、アプローズ! 囚人たちの大舞台(2020年製作の映画)

4.0

 フランスの俳優と受刑者の物語である。comédianはコメディアンと発音はするが、フランス語では俳優のことである。いわゆる喜劇役者はhumoriste(ユモリスト)だ。「コメディアン」という台詞を聞>>続きを読む

戦争と女の顔(2019年製作の映画)

4.0

 この8月に広島で開催される原水爆禁止2022年世界大会に先立って7月に開かれた科学者集会で、和田賢治武蔵野学院大学准教授が「ジェンダー化する安全保障」と題する講演を行なった。
 講演の趣旨は、男らし
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セルビアン・フィルム(2010年製作の映画)

3.5

 情報公開を要求したときに役所が出してくる黒塗りの文書がある。何故かそれを思い出した。日本のAVではモザイクがかけられているが、あれは黒塗り文書と一緒で、あまりよろしくない。日本ではポルノ映画でなくて>>続きを読む

魂のまなざし(2020年製作の映画)

4.0

 フィンランド共和国は人口550万人の小さな国だが、国連が発表している幸福度ランキングはこの5年連続で第1位である。民主主義社会の成熟度、教育文化レベル、福祉の充実度などがいずれも高評価となっている。>>続きを読む

デウス 侵略(2022年製作の映画)

3.5

 地球の人口が210億人に達した近未来が舞台。地球は壊れていき、人類の未来に暗雲がたれこめていくさなか、火星軌道上に突如として現われた黒い巨大な球体。その正体は何なのか。未知の球体に、人々は根拠のない>>続きを読む

1640日の家族(2021年製作の映画)

4.0

 女性だけが母乳を分泌することと関係があるのか、母性は専ら女性の特徴である。どちらかというと理詰めで考える男性に対して、女性はどちらかというと情緒を優先する。
 本作品の「マモー」は後者の典型で、何か
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島守の塔(2022年製作の映画)

4.0

 吉岡里帆がとてもいい。泥だらけのモンペ姿での演技は、化粧や衣装やライティングの助けが得られず、演技力の真価が問われたが、見事にポテンシャルを発揮してみせたと思う。
 演じた比嘉凛は、これこそ軍国少女
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グレイマン(2022年製作の映画)

3.5

 ロバート・ラドラムやトム・クランシーの小説を読むと、CIAの現場工作員は「エージェント」と呼ばれているようだ。海兵隊の特殊部隊や陸軍のデルタフォースなどからリクルートされ、訓練を受けて現場での諜報活>>続きを読む

ボイリング・ポイント/沸騰(2021年製作の映画)

3.5

 レストランの一日は、届いた食材の検品と整理からはじまる。注文通りの品が注文通りの個数と状態で届いているか。生で頼んだ肉が冷凍で届いたら、その肉は翌日にならないと使えない。肉は冷蔵解凍するのがきまりだ>>続きを読む

神々の山嶺(2021年製作の映画)

4.0

「そこに山があるからだ」という言葉(本当は「そこにエベレストがあるからだ」が正しい翻訳らしい)で有名な登山家ジョージ・マロリーの最後の登山の真相に纒わる物語である。
 マロリーはエベレスト登頂に成功し
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