ルサチマ

静かに燃えてのルサチマのネタバレレビュー・内容・結末

静かに燃えて(2022年製作の映画)
4.1

このレビューはネタバレを含みます

傑作とは思わないが、リビングの部屋の壁に閉じ込められた世代を超えた物語を解きほぐしていくような語り口は確かに見応えがある。限られた撮影体制ゆえ、貧しい画面であるからこそ、映画の中心を担うリビングの空間は主人公の描いた絵が同居人の提案によって飾られることにより、映画的と言うほかない空間が立ち現れるのだが、これは今作を見た人ならご存知の通り単に見栄えがあるということとは違って、白い壁に色とりどりの絵画がかけられることによって(しかも主人公ではなくあくまで同居人からの提案という形をとることで)不可抗力的に、主人公が描いた同居人の姿絵が意味を持つことになる。主人公が同居人の相手に同性愛の感情を抱くことになるのはいつからか決定的にはわからないが、この不可抗力的に絵を飾った瞬間をひとつのターニングポイントとして捉えられるように思う。絵を飾ることで、額縁の中に閉じ込めた美しき同居人の姿を常に視界に入れていた主人公は、そこに自らの同性愛の欲望を見出し、現実の同居人の帰りが遅い日も、主人公は額縁を通して不在の同居人のことを想像するのだろう。
そして驚くべきは壁をめぐるドラマは、リニアな直線軸の物語として語られるのではなく、並行して描かれていた同居人の未来の子供たちへと引き継がれる。しかもここでもまた、壁をめぐるドラマは他者(未来の隣人の大学生)を通じて語られ直すという仕掛けが施され、実際この壁のドラマについて想像を巡らせる主体は直接の子供たちではなく、隣人である。
それゆえ、この映画の中で語られる主人公と同居人の同性愛にまつわる問題は全て伝聞調でしか語られることしか出来ず、しかし同時に客観的な目線を通すことで逆に本質的な事実かもしれぬヴィジョンが浮かび上がる。
この映画のベストショットを一つあげるとしたらエンドクレジットの直前の事実上の物語のラストカットである主人公がタバコをふかす顔のアップだ。それまでの語り口がすべて伝聞調により成り立っていたものだとすれば、あのラストカットだけは唯一例外的に主人公が自分の実人生の中で確かに体験したであろう時間を掬い上げている。同居人が結婚をして1人きりになった彼女のことは誰も知るはずはないという説話的な証拠に加え、画面の質感としても、それまでのやや説明的に感じるような画面の切り取り方とは異なり、実際にあの主人公の表情を見つめようとする衝迫があるからこそ、あのカットは「ショット」という他ない(「ショット」なんて言葉を使うことにすら躊躇いはあるが…)密度が宿ったものだ。

ただ、そのラストカットに至るまでが結局のところ説明的な文体というか、シナリオからはみ出すような時間を拾い上げてるとは思えず、あまりにラストのために奉仕するカットの積み重ねになってる印象は否めない。そのことがこの映画の最大の弱点だったんじゃないか。だとすれば、その後の人生においてこの問題を克服されなければならなかっただろうし、それを叶えなかったことは残念という他ない。
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