シュローダー

氷菓のシュローダーのレビュー・感想・評価

氷菓(2012年製作のアニメ)
5.0
末恐ろしい傑作。ここまでキュートかつ大人なミステリーを俺は知らない。「やらなくてもいいことはやらない。やらなくてはいけないことは手短に」をモットーに生きる省エネ人間。折木奉太郎。彼が出会ったのは、気になる事は徹底的に知らないと気が済まない少女 千反田える。彼女と、友人の福部里志と、腐れ縁の伊原摩耶花の4人は、古典部に入部する。そこから巻き起こる事件に彼らは巻き込まれながら、1年がゆっくりと過ぎていく…
この作品の大きな魅力は、やはりキャラクターのアンサンブルであろう。"えるたそ"こと千反田えるの破壊的可愛さは、21世紀のアニメキャラでも最も素晴らしいものであろうし、それよりも高いポテンシャルを発揮する"ほうたる"こと折木奉太郎というキャラクターの、「ニヒルじゃないキョン」という最凶のキャラ設定も素晴らしい。そして、米澤穂信原作だけあって、一つ一つの物語がミステリー的にも、人間ドラマ的にも、非常に纏まっている。第一編「氷菓」 古典部の文集に秘められた、一人の男の想いとは。「アイスクリーム」のくだりで、劇中の登場人物と同様に、驚いてしまった。第二編「愚者のエンドロール」京アニの自主映画描写のクレバーさは「涼宮ハルヒの憂鬱」でも証明済だが、(カメラのブレ方が経験者からするとまさにそれ)このシリーズが真に「小説」原作である事の証明が後半にある。普通のライトノベルではあまり描かれない「主人公の姿勢、信念を一度完膚なきまでに叩き折る」という事をやってのける。ここまでやるとは正直思わなかった。第三編「クドリャフカの順番」前半はお気楽なトーン(特に料理対決回は最高に面白い)だが、後半から語られる2つの同じテーマ(「尊奉」と「期待」と「嫉妬」の正体は実は同じではないか?)の話を見立てを変えながら並走させるストーリーテリング。これはまさに「桐島、部活やめるってよ」にも匹敵する。そして、ここで撒かれた種を厭〜に回収するのが、第四編(短編連作のため、便宜上)「遠回りする雛」 特に最終2話が凄い。バレンタイン回。チョコレートだからって「甘い」とは限らないという意地悪な問い。ここでまたしても折木奉太郎を相対化してみせる。そして、最終話 ここへ来て、この物語全体がひっくり返る。この物語が真に語りたかったのは、"省エネ人間が自分を謎めかせる相手への「恋」を自覚するまで"という物語だったのである。やられた。これまでの全ての話が違った意味を持ってくる。本当に見事な構成の妙である。総じて、京アニ制作アニメの中でもトップ3に入るほど大好きなアニメである。22話に再構成した「たまこラブストーリー」とも言えるし、「氷菓」を90分に纏めたのが「たまこラブストーリー」とも言える。どちらも別のベクトルで傑作なのだが、僕は「氷菓」派だ。「たまこラブストーリー」に感じた若干のあざとさを完全に克服し、押し付けがましくない恋物語を創造している。何度だって観たい大傑作。