物語については触れる必要もないくらいだろう。いろんなバージョンでこのお話の映像化作品を観たけれど、原作を読む以外で最上の選択は間違いなく本作である。子どもの頃に観た断片的な記憶はあるけれど、物語のそこここで触れられる人生の機微を当時5、6歳のガキに理解できようはずもないから、おそらく最後までは見届けなかったと思われる。改めてちゃんと通して観たけれど素晴らしいことと言ったらない。全編を通じてこれぞ珠玉だと思った。アンの失敗だらけの行状や大仰な言葉遣いがとにかく可笑しくて、でもその懸命さや健気さに見える彼女の人生観が同時に悲しみをも連れてくる。単なる記号的なアニメキャラクターとしてでなく、一人間としての裏付けがあってこその説得力。これこそが人間ドラマの理想形である。良い側面ばかりでなく、ダメな側面によっても人は輝ける。数々のしくじりと前向きな反省、そして嘘がない人柄によってアンが愛されていく必然。人間は一面だけで語り得るほど単純じゃないのだ。中でも特に好きなエピソードは、アンが手違いでグリーンゲイブルズにやって来てからマリラが引き取ると決断するまでの第1〜4話、アンが間違えてやって来た日を一年後の同日に三人で思い返す第20話、4年が経過しすっかり成長したアンにマリラが言い知れぬ寂しさを覚える第37話、アンがクイーン学院入学のためにシャーロットタウンへと旅立つ第41話、悲しみの直前の穏やかな一日の第46話、マシュウとの別れの第47-48話。マリラとマシュウがアンの失敗エピソードを懐かしがり、手を離れていくのを寂しがる様子に目頭が熱くなってしまう。第46話、自分が女の子だからマシュウの役に立てなかったと悔やむアンに対するマシュウの返答がこのドラマの全てであるかも知れない。これまでに観た全てのアニメ作品の中で紛れもなく生涯ベストワン。地に足ついた高畑演出の素晴らしさ。個人的にはアン役に山田栄子を当てたことに尽きる。完璧な仕事だったと思う。
あんまり良くて2週目も完走。好きを通り越してもはや愛おしい。