シズヲ

ぼっち・ざ・ろっく!のシズヲのレビュー・感想・評価

ぼっち・ざ・ろっく!(2022年製作のアニメ)
4.0
『ガールズバンドクライ』とかを見ててふと批評したくなったので書いた。『けいおん!』は部活モノだったが、本作はライブハウスが主な舞台。この手の作品で「主人公がボーカルを担当しない」「技術的には主人公がバンド内で突出している」という設定になっているのはちょっぴり新鮮。原作と比べると簡素でベタ塗り感の強いキャラデザが印象的で、作画の負担を軽減しつつキャラクターを動かしやすくしているらしい。そのぶん表情などの演出も原作よりあっさり目なのは惜しいけど、演奏シーンを中心に生き生きと躍動してくれるのでビジュアルは十分に魅力的。いずれのキャラもかなりマンガ的なデザインなのに、作中の写実的な風景にすんなり溶け込んでいるのが何だか面白い。

ただ大ヒットした割に取り立てて突き抜けた要素はそんなに無くて、根暗・陰キャラという観念を美少女モノのフォーマットでデフォルメ化してコミカルに描いた直球のサブカル系アニメである。主人公“ぼっちちゃん”のシュールな挙動の数々は本作における明確な笑いどころであり、同時にそんな彼女の“戯画化されたナード”的な振る舞い(それ故の苦労や奔走)は視聴者層の共感や親近感を促す要素となっている。ぼっちちゃんのキャラクター性を中心とするオタク的で自虐めいたユーモアに乗り切れなければ、本作は正直だいぶ寒々しく見えると思う。ぼっちちゃんと露骨に対照的な喜多ちゃん、“金欠でボンクラなベーシスト”という如何にもなステレオタイプ性を持つリョウさん、酒クズバンドマンを体現しまくる廣井さんなど、他の登場人物達も何処かカリカチュアの味わいに溢れている。

本作は如何にして支持を受けたのかと振り返ってみて思うのは、多分そういったユーモア以外の要素でめちゃくちゃ徹底した灰汁抜きをしているからだと思う。原作は四コマ漫画独特の緩急もあって笑いのセンスが仄かにブラック・ナンセンス寄りで、それに伴いぼっちちゃんのナード的な挙動もぼんやりシニカルに扱われていた印象。アニメになるとその辺りの毒抜きが顕著というか、アニメの尺に合わせた緩やかなテンポ感に作中のユーモアが抽出されて落とし込まれている。原作では悪意なしに辛辣かつ無遠慮な一面のあった喜多ちゃんがアニメだと大分穏当になっているのもそうだけど、全体的に冷笑や毒の要素が緩和されている。あと原作では連載初期や公式絵でちょっぴりサービスカットの要素が見受けられたけど、少なくともアニメではグッズ含めてそういう描写がほぼ皆無なのが地味に好き。

そのうえで本作は原作の描写を補完しつつ、登場人物の所作や心情に行間を作って掘り下げるような演出が強調されている。結果としてぼっちちゃんを取り巻く人間関係や物語の味付けが変化しており、コミカルさを押し出しつつも原作以上に「何だかんだ周囲から愛されて見守られながらコツコツと一歩を踏み出していくぼっちちゃん」という前向きなストーリーが成立している。原作ぼっちちゃんは周囲から好かれつつも苦笑いされているけど、アニメぼっちちゃんは周囲から苦笑いされつつも好かれている感じがある。作品の土台にある日常モノ的なフォーマットも却って女子高生バンドの地に足ついたドラマ性に寄与しており、下北沢の写実的な描写も相まってデフォルメとリアリティが共存しているような味わいに満ちている。

あと舞台の殆どを部活動に収束させていた『けいおん!』や寧ろアイドルもののテイストだった『BanG Dream!』と比べて、より現実のバンド文化へと接近しているのが印象的。下北沢というロックバンドに縁の深いロケーションがほぼ忠実に再現され、集金や集客など音楽活動における地道で生々しい苦労が描かれ、更にはASIAN KUNG-FU GENERATIONにオマージュが捧げられ……と言った感じに、土台となるカルチャーが作風として強く意識されている。劇中歌においてもヒグチアイ、KANA-BOON、tricotなど、下北沢に関連するアーティストが複数参加しているのが興味深い。どちらかと言えばアニソンやアイドル系譜の色合いが強かったガールズバンドものにおいて、より明確に邦ロックのテイストを打ち出している。アルバム収録曲も含めて楽曲はいずれも良質で、本作の魅力として間違いなく確立されている。

改めて本作、サブカル性のど真ん中を行きつつユーモア以外のエグみが丁寧に除去されているのはやっぱり大きい。そのうえでアニメを構成する個々の要素を高品質に仕上げているので、ある意味で非常に堅実な味わいがある。おれは廣井きくりさんが好き。
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