たも

終物語のたものネタバレレビュー・内容・結末

終物語(2015年製作のアニメ)
5.0

このレビューはネタバレを含みます

 扇フォーミュラ、育リドル、育ロスト、忍メイルの4本立て。最初の3本が本当におもんなかったし、スコアで言えば最低点だったけど忍メイルで手のひらを返した。天地がひっくり返った。

 まず終物語ってミーニング的に最終章の終を連想していたけど、終わってみれば憑物語で扇をラスボスに見立てたことでミスリードを誘ったのかもしれない。
 今回に限っては夏休み明けの期間、始業式の日、羽川サイドの物語の裏側、いや物語的に表側なのか、張られた伏線を回収する、知りたかったところに手が届く回想の物語だった。

 観終わった感想として、テーマは"人としての終わり"を表現した物語に感じた。
「人に戻りたいんじゃないか?」なんて暦は初代に語りかけていたり、駿河吊りの駿河が忍を論破した時も人を説いていたし。それよりなにより余接ちゃんのセリフ
「不幸でいつづけることは怠慢だし
 幸せになろうとしないことは卑怯だよ
 自殺した先駆者が報われない」

 この言葉の真意は人の終わりを説いていると感じた。オレはどちらかと言うと終わっている人間だからヴァンパイアに聖水を飲ませるくらい効いた。西尾維新先生の才能と目の眩むような正しさに心底嫉妬した。可愛い焼きもちじゃ済まないくらい。なんて説得力を持たせて、言葉に魂を宿せるような表現を押し通せる作家さんなんだろう。まるでオレの人間性を根っこから覆されてしまうような倫理観だと感じてしまった。羨ましい、、、

 扇フォーミュラ、育リドル、育ロストの3本は本当に楽しめなかったし得られるものもほとんどなかった。当方数学も算数も大嫌いだ。関連する話を聞いていると眠ってしまうほど、数学が嫌いな身として苦手な物語だった。

 暦が順序立てて話している回想が公式だとすれば、扇は一度聞いただけで簡単に答えを導き出してしまう。まるで初めから知っているかのように「私は何も知りませんよ、知っているのはあなたです。阿良々木さん」と話をはぐらかすのが不気味で、薄気味悪くて、信用ならない。所々に愚か者呼ばわりしたり、蔑んで煽ってみたり、ほくそ笑んで傍観している。そんな嫌味を吐いて不利益を振り撒いていれば悪役を演じられると思っているキャラクター性が好きになれない。悪役にもかっこよさとか美学が必要でそれが1ミリも感じられなかった。
 これほど嫌な印象を感じるんだから嫌な奴って印象付けるのはとても上手くいっているけど。

 阿良々木くんと羽川さんを人物像として好きなのは当たり前として、おいくら育ちのキャラも好きになれなければ、物語の内容も好きになれなかった。たぶん意図的に話を数学を模して作っているんだと思う。ミステリー調ではあると思ったけど、Aが起こる=B、Bが起こる=C、Cが起こる=Aに戻る。みたいに三竦みみたいなもの当たり前のことのように堂々巡りしているのが眠くて仕方なかった。今まで見てきた物語シリーズで唯一おもんない話だったと感じてしまった。怪異的な話も始めの閉じ込められる教室ってだけの名前も動物や架空の生き物の名前も象らないイレギュラーさ。逆に考えれば育は正式なヒロインではありませんよって印なのかも。

 育は自分の置かれている現状にあそこまで整理をつけて見切りをつけられる人間なのに、あんな風に不幸と向き合うと思えないから色々と納得いかなかった。
 阿良々木くんの「幸福はそんな良い物でもなければ、誰でも当たり前になって良いものだ」みたいなセリフは至極真っ当だと思うし、ハッとさせられるけど世の中には幸福をさえ恐れる人も居れば、綿で怪我する人もいるし、幸福に傷つけられる事もあると思う。あの正しさがやり方としては正しくないし、物理的にも道徳的にも物語的にも正しいけど、人間はそんなに正しくないし、不条理だし、矛盾があって然るべきだから阿良々木くんの考え方は数学的であまりにも完璧すぎだし、変なふうにモヤっとした。
 高校3年の卒業間近に転校を繰り返す同級生って文字にするのもモヤっとするけど笑というか百歩譲って死体を死体と思えないとこまでは理解できたとしても、腐敗臭の対処やら近隣への影響とか、ゴミ屋敷を処理した業者が気づかないわけもないし、そもそも家ごと捨てたら死体遺棄で罪に問われるけど、少年法が適応されてる?他の話は怪異が絡んでて罪とか意識しなかったけど今回の話は完全にそれこそ暦の両親が出張ってきてもおかしくない。というか両親も幼い育を家に引き取るって選択も明らかに選択ミスってる。猫物語で母親だけ登場してたけどあんなに聡そうな母親がミスるわけないから父親の方が決めたのかな。役所の援助で一人暮らしではなくて児童相談所からの児童養育施設の流れが自然だったかも。

 羽川は視聴者と同じように扇に対して危うさみたいなものを感じていて、それに対して屈するわけでも煽りに乗るのでもなく売られた喧嘩を買うわけでもなく、真っ向から打ち負かしてしまうところがとにかく愛おしくてかっこよかった。旅に出て忍野メメを探す理由になるくらい脅威に感じるのに、どうしてが阿良々木くんがあそこまで警戒心を解いて接しているのかは気になった。忍メイルの最後に余接ちゃんも暦は扇に対して甘いんじゃないかと指摘していたけど。

 これだけ先の3本に不満があったから尚のこと忍メイルの駿河の正しさがむしろ潔いものに感じたし、忍のキャラクターの深みというか人間性が1段階向上した感じもして、めちゃくちゃ面白かった。

 どうでも良いけど今の今まで声優さんの重要性みたいなものを軽く見ていた節があったけど、物語シリーズに登場するヒロインの声を演じてる人たちは本当にキャラクターに声を充てるのが天才的に上手いと感じた。群像劇的な作品だからこそ喋りの良さが際立っているように思う。ヒロイン達みんな好きだ。
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