たも

メイドインアビス 烈日の黄金郷のたものネタバレレビュー・内容・結末

4.5

このレビューはネタバレを含みます

 こんなにワクワクする作品は他に類を見ない。ロールプレイングゲームの面白さを表面的になぞるんじゃなくて、その内面ごと取り込んだような物語。
 表面的になぞることの代表例は、例えば勇者が世界を救うため魔王を倒す旅に出る。ステレオタイプのRPGを説明すると言ったら誰でもまず勇者と魔王やら剣と魔法の世界なんかを連想する。その基盤を元に脚色するのが表面的になぞることだとしたら、今作ももちろん魔物の村とか、ナナチの新しい装備とか、白笛によるレグの強化とか表明的な面白さもあってワクワクするんだけど、未知の世界に飛び込んでゆく、探検して道を切り開いてゆく、知識を深めてそれを駆使して立ち向かってゆく。そういうRPGでしか得られないような栄養素が映像を観ているだけで得られる、なろう系へのアンチテーゼ。多分作り手側にそんなつもりは一切ないけど心底楽しくて貴重な章だった。

 ドラクエやスターウォーズを彷彿とさせる異形、元人間のなれはての姿。パッと見は原生生物たちと見分けが付きにくいが、よく目を凝らすときちんと書き分けされていてそのデザインが秀逸。原生生物は不気味で何をしてくるか分からない化け物じみた怖さもあるし、なれはての人間たちはどことなく知性を感じる。どちらも見慣れない化け物なのに違和感も感じず、むしろ感情移入がスムーズにできてデザインの良さを何度も感じた。
 お気に入りはまーさん。どんなにシリアスなシーンでも腕がもがれて肌を食い荒らされても「まー」としか鳴かないし、見ていると思わず笑ってしまう。つぶらな瞳、ガチャピンのパクリみたいな容姿にプリケツ、全身ピンクに二本の出っ歯、まじで笑かしてきて腹立つ(褒めてる)

 1番感情移入できたのはやはりイルミューイ。どうして幼い子供を苦しませながら異形の姿に変えて自我を無くすまで悲しませてしまうんだ、つくし先生(笑)
 聞いたところによると「ゲームオーバーの先の展開が見てみたい」っていう悪役が吐きそうな倫理観でメイドインアビスの話を作ってるらしい。誰も見たことのない話と展開を望んでるその姿勢は作中に出てくる決して引き返すことを許さないアビスの冒険家を投影してるようで、そんな変態性がこの作品の最大の魅力でもあると思う。
 上記の話を聞いて真っ先に思い浮かんだのは進撃の巨人の諫山創先生が物語を作る姿勢を語った時に「見ている人を傷つけたい」といったサディズムを語っていたことを思い出した。ダークファンタジーという共通点もあるが、烈日の黄金卿を見ていてつくしあきひと先生も同族だとつくづく思った。

 共通点の話で広げると願いを叶える卵、欲望の揺籃はベルセルクのベヘリットを連想した。まさかグリフィスが仲間になる展開なのかと思ったけど、流石にナナチとキャラもかぶるし、もふもふ2匹目は加入しなかった(笑)

 あと話的に気になったのは黎明卿ボンドルドがミーティを売りにきた時の話、ボンボルドはやはり6層より下の層へも降りた経験があるっていうのが、考えてみれば当たり前なんだろうけど、クローズアップされてない大事な要素に感じた。あいつ呪い度返しで上へ下へ行ったり来たりしてる。階層を跨いで体を送ると不都合があるとは言っていたけど全くもって出来ないわけじゃないらしい。帰らずの都もボンドルドには当てはまらない。今のところ唯一のアビスの最下層から生きて出られる可能性のある生命体。バッドエンドのオーラが漂う本作に希望の光を見出すとしたら……いや、ハッピーエンドは期待できないか。

 イルミューイの子供を食うっていう狂気を目の当たりにしたとき完全に脳みそに会心の一撃をもらった。今までの物語も散々酷いことがあったしこれらを超えることはないだろうっていう淡い期待と怖いもの見たさ、そんな浅はかな気持ちを軽々と踏み躙ってくれた。最高に狂ってて最高だった。子供を産めないはずの体と年齢に加えて、その生まれてきた異形の姿の生物を1人2人と人間として数えるのが恐ろしくて、そうして息を呑んでる間に子供を喰らいはじめた時はなにかの間違いじゃないかと思った。
 そもそも子供が産めないって件を何回か見せられていたから、欲望の揺籃に何を祈るのか想像がついたはずなのに、そんなことは一切思いつかなかった。多分意図的に出来ないを前提にしていたから、だからこそ気付きにくいっていう構図になってたんだと思って心底感心した。

 相変わらず続きを見ないと満足できない気持ちを抱かせてくれる天才だと思う。今後のシリーズにも大いに期待したい。そして踏み躙られたいし、良い匂いのふわふわ、良い匂いのナナチをモフりたい。笑
たも

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