たも

偽物語のたものネタバレレビュー・内容・結末

偽物語(2012年製作のアニメ)
4.5

このレビューはネタバレを含みます

 初めからレビューを書くことを念頭に置いて、流し見をしないことを意識していたけど、今作はやりたいことをやりきるっていう気概を感じる作品だった。
 例えば火憐ビーと月火フェニックスの2部構成の今作だけど、そのうちの何話かは本編にほぼ関係のないギャグに振り切った回が何話かある。正直なところ最序盤だけは進行が遅くて退屈だった。ギャグ回の内容も原作には大凡登場しない(であろう)オタクにしか伝わらないネタが多くて、見る人を篩にかけられている感覚になった。徹底的に狙っている層にブッ刺さる、つまりオタクにウケの良い、エヴァのセリフから始まり、サイボーグ009やら、AKIRAの有名なシーンのオマージュやら、赤塚不二夫やら、初代プリキュアやら、新旧拾い切れないくらい細かな他作品のオマージュを散りばめている。現実世界の大人の事情とか、エンディングの踊りはどうのこうのってメタ的な笑いの取り方も健在だし、その使い方や写し方が絶妙に噛み合っていて見ていて心地いいものになってると思う。
 エンディングで思い出したけど、月火ちゃんのキャラソンはシリーズ屈指の中毒性のある素晴らしいOPだと思ってる。何回もリピートしてる。
 空恐ろしいミステリー調な話の展開と、非現実的な形状の家具やら、やたら広い空間や背景、モノトーンと単色やカラフルな小物みたいな組み合わせの異質な風景が、世界観ともよく合っていて、色んな点で制作会社の方々の遊び心というかプロの意地みたいなものも感じた。

 今作で気づいたことで感嘆とした事がタイトルの偽物に掛けて、囲い火蜂は存在しない架空の怪異、しでの鳥は偽りの子を胎内に宿す怪異、誇り高き偽物vs偽物の正義、偽物の家族、偽物の妹の月火ちゃん、亡くなった妹を投影して仕わせている影縫、互いに抱えた偽善など偽物を貫き通しているところ。見方によってはオマージュも偽物だろうか……。
 正直一度見た時は起きた事柄をただそのまま受け止めて「へー、そうなんだ」くらいの気持ちで流してしまっていた。今思えば化物語も化物と怪異とも掛けてるし、化けるって言葉の通り姿形を変えるって意味で、死んで化て出てきている幽霊の類の迷い牛、自分の意思と反して化て出てくるレイニーデビル、ストレスの権化の化け猫の障り猫と、化物が執拗なまでに掛かっていたことに気づいた。怪異自体はオリジナルだから煙が先か火が先かって話になるけど、それでも一つの設定というかコンセプトで話をここまで展開できるのは天才としか言い表せない。

 本作の本編最後の言葉。「最後に忍野くんが絶対に言わないであろうセリフで締め括ろうか、さようなら。」っていうセルフセリフオマージュが痺れる。正に偽物語。
 本物とそれと全く区別のつかないような偽物。どっちの方が価値があるか?誇り高き偽物の貝木の言葉を借りれば「偽物の方が圧倒的価値がある。そこに本物になろうとしている意志があるだけ偽物の方が本物より本物」らしい。これを聞いて真っ先に昨今のAIを連想した。いつか人間になりたいと思うAIが現れた時、完全な人間を模したAIが現れるのかもって思うと、なんて時代を先取りした作品なんだろうって思った。
 今や誰もが知っている藤井聡太八冠はよくAIと対局していたと聞いたことがある。いつか藤井聡太を倒したいと思う、プログラミングしたわけではなく自発的に思うAIが現れたら…笑

 どうでもいいけどキスショットアセロラオリオンハートアンダーブレードって語呂が良すぎて無限に口にしたくなる。旧怪異の王。怪異殺し。鉄血にして熱血にして冷血の吸血鬼。BLEACHと似たセンスの良い厨二心をくすぐるカッコ良さ。
たも

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