三樹夫

GAMERA -Rebirth-の三樹夫のネタバレレビュー・内容・結末

GAMERA -Rebirth-(2023年製作のアニメ)
3.0

このレビューはネタバレを含みます

1989年の夏休み、怪獣が出現。子供たち4人&ガメラの怪獣との戦いと青春ジュブナイル。このアニメは何をしたいかは明確で、スピルバーグ的な郊外映画のノスタルジー青春ものと、監督がインタビューで語っている通り怪獣プロレスとの2本柱だ。
怪獣プロレスは毎話ごとに過去のガメラ作品に登場した往年の怪獣たちとの存分な戦闘シーンがある。特徴としては死ぬ様をそのまま映すというような直接的な描写はないがとにかく人がポンポン死ぬし、ガメラが腕を切断されるなどする。街中など建造物が壊れる戦闘もある。このアニメは3DCGで製作されており、3DCGによることの怪獣プロレスには楽しさもしっかりある。なんでガメラ回転して空飛ばねぇんだよと思わせておいてにくい出し方をする。
しかし演出面で疑問がある所がある。また青春もの要素やその他にも演出面で疑問がある所があるので、単純に瀬下監督の監督としての技量がそこまで高くないということに起因しているように思ってしまう。瀬下監督も参加したアニゴジ3部作は怪獣プロレス禁止のお触れを出した企画者が大戦犯なのは第一として、脚本の虚淵玄とゴジラを全く知らないという監督の静野孔文がやり玉にあげられるが、このアニメを観ると瀬下監督も監督として力及ばずなのがアニゴジのあのクソっぷりの一因のような気がしてきた。
このアニメは怪獣プロレスの量に関しては大量なのだが、その中身がガメラ平成3部作と比べるとショボい。なので大盛り薄味の怪獣プロレスで、腹はふくれるけどすごく美味しかったまた食べたいと思うかというと…といったところ。ガメラの吐く火炎弾の迫力もそこまでだし、街中の建造物を壊す爽快感があるかというのもそこまでなうえに、最終戦は野っ原で戦うのでアクションの結果としての壊れる物がないため爽快感がないという『GODZILLA 怪獣惑星』と同じ事態になっている(『GAMERA-Rebirth-』はビームで多少は地面がエグれるのでマシだけど)。ただこのアニメの怪獣プロレスに関しては平成3部作との比較でショボく感じてしまうので、言い換えれば平成3部作が凄いということで、単に分が悪かったとも言えるかもしれない。

しかし、さすがに擁護できなくなってくるのがノスタルジー青春要素だ。まずこのアニメの3DCGは人物描写に関してはカクカクしており表情も乏しいので入口の段階で厳しい。特に戦車隊の女性の自衛官が、絵を描き始めて2日目の人が担当みたいな下手にしか見えない作画になっている。予算の問題なのか、1話のゲーセン周辺でギャオスが襲撃してきた際にはこの街は住人がいないのかぐらい人がおらず、終盤ガメラ治療に呼ばれた学者スタッフも4人しかいないという、要所要所で人の少なさがすごく気になる。
今80年代ノスタルジーをするのも散々こすられてきた後で出遅れの今更感があるし、青春ノスタルジーといえば夏休み秘密基地なのは安易でテンプレ感がある。ファミコンやゲームボーイなど任天堂アイテムの存在感がないのは気になるし(アーケードではSEGAとデカデカと出ており、エンドクレジッットにSEGAの名前があったので許可を貰った社名は大々的に使えるんだろうなと大人の事情は分かるが気になる)、そもそも89年感が皆無。89年という雰囲気を作り出すことに全く力は注がれていない。作中の時代設定が2000年とかでも通用すると思う。一例をあげればさすがに89年にゲームのワイアレスコントローラーはないので、89年という時代を描くことについてはこのアニメははっきり言って杜撰。
自転車、ジョックスのいじめっ子、家庭環境がハード気味という、定番のハリウッドの青春ジュブナイルものというか、スピルバーグ的な郊外映画を意識しているのはありありとわかるが、表層をこすっているだけに留まっている。『E.T.』、『グーニーズ』、『スタンド・バイ・ミー』、『ストレンジャー・シングス 未知の世界』等のジェネリックでしかないというか、そもそも『ストレンジャー・シングス 未知の世界』自体がスピルバーグ的郊外映画のジェネリック作品なのに、さらにそれを薄めたような青春ものにしてどうするんだろ。
タザキは中期以降のスピルバーグ作品主人公によくある中身は子供のままのおっさんが子供を守ることで大人へと成長するという男で、絶対にこのアニメの制作者も意識しているが、タザキはあんまり子供守ってないし中身は結構幼稚なまま。最後のタザキはジョブズになりましたをやらなければいけないので表面的な要素だけ取り出してキャラ付けしたに留まったのだろうか。外で脱出ポッドのレバー引くのはジョーとタザキ絶対役割逆だろ。これじゃジョーの方が大人じゃん。しかも誰かが犠牲になって外でレバー引く展開を2023年にもなってやるのか。さすがに陳腐じゃないかもう。いきなりジョーが死ぬ感あって感動もしないし(最後通信があったので死んでないっぽいけど)。
ボコの母親は付き合う友達選べと言うような教育ママ、ジョーは片親貧困家庭、ブロディの父親は家父長制の抑圧者となっているが、このアニメでアプロ―チしたのはブロディが多少父親に逆らったぐらいで後はほったらかしになっており雑。エミコは使える使えないでしか人を見ないので友達がおらず、メイン4人特にジュンイチとの対比になっているが、エミコの使える使えないでしか人を見ない描写というか実はクソ人間描写が雑でテンプレサイコ悪役の域を出ないと、このアニメは怪獣プロレス以外のところがかなり雑。というより怪獣プロレス以外はわりかしどうでもよかったのではないか。このアニメの青春要素で良かったのは友達に性別は関係ないというセリフぐらいかな。

3話のタイトルが「深く静かに潜航せよ」で作中でも潜水艦ものを意識しているようなシーンがあったが緊迫感や閉塞感を感じられないと、本当にこのアニメは色々な所で他作品の表層をこするに留まっている。潜水艦ものはボルトがふっ飛んだり計器にヒビが入ったり、艦内が狭く観てるだけでこちらも息苦しくなるというのが定番だが、このアニメではそういうのは一切なくタザキが息苦しくなるとセリフで言うだけ。しかも艦内は結構スペースがあり閉塞感が感じられない。
政治家主導でガメラ復活のために学者やスタッフが集められるのは、対ゴジラに向けて専門家が集結する『シン・ゴジラ』を想起するし、最後の自衛隊VSギャオスは『ガメラ2』での小林昭二の「今度は絶対守ろう」的なメンタリティを感じる。ただ全編通して軍隊描写がヘニャヘニャだったのは何でなんだろう。ブロディパパとか指揮官が最前線来てどうするんだろ。しかも特に何するわけでもないし。指揮官としても、良い報告なんだろうなとか何の意味もない圧かけたりすぐ冷静さを欠いたり無能にしか見えなかったし。折り紙戦車乗りも命令無視して連射したりしてリアリティは感じなかったな。そこの所はあえてリアリティを気にしてないのかもしれないが。それにしてもガメラ復活のために集まった学者やスタッフが4人しか描写されていないのは少なすぎ。あんなの絶対人数足りるわけない。そういった所で『シン・ゴジラ』はちゃんとしてたなと、2023年はシン仮とこのアニメのおかげで『シン・ゴジラ』の評価が自分の中で上がる。
ユースタス財団は通信機を子供に渡しておきながら誰一人として会話を盗聴してないんかい。大人がバカでポンコツすぎる。『ゴジラvsコング』もそうだけど、このご時世に陰謀論がわりかし当たってたという展開は無邪気というか無責任というか。陰謀論に起因する事件のニュースとか見ても何とも思わないのだろうか。悪い意味で中学生感のある作品で、監督含めて脚本家が4人いるが(プロデューサーも脚本に口出ししたりするので、もしかすると脚本に携わった人数はもう少し多いかもしれない)、グループで制作してこのガバガバさなのかと烏合の衆感すらある。
サプライズ的な展開として何故怪獣が出現したかというと、月の裏側のエリートなんちゃって人口論者たちの怪獣に食わせて人口減らしたろという企みと判明するが、そうなるとこのアニメは怪獣ものじゃなくてモンスターパニックとしてしか見れない。ギャオスとかギロンとか色々出てくるけど怪獣じゃなくてモンスターとして襲ってきただけじゃん。ガメラ使ってモンスターパニックもの作るのは、これですごい面白かったらよかったけど微妙な出来だし、俺だったら『トレマーズ』や『ザ・グリード』とかを観る。

色々な作品の要素が詰め込まれているがどれも表層をこすっているのみで作りが浅い。万事が万事表層をこすっただけに終わっているこのアニメを観ると瀬下監督の監督としての技量に疑問を感じる。3DCGは出来るけど演出や脚本はイマイチというのは、アニメ界の樋口真嗣のように思えてきてしまった。このアニメには色々な要素を見いだせ、また盛り込まれているが、量が多いだけの大盛り薄味の作品が出来上がってしまった。ガメラの怪獣プロレスを楽しみたいならガメラ平成3部作を観ればいいし、青春ノスタルジーものが楽しみたいなら『E.T.』、『グーニーズ』、『スタンド・バイ・ミー』、『ストレンジャー・シングス 未知の世界』を観ればいいと思う。
このアニメのメイン4人の声優は金元寿子、松岡禎丞、豊崎愛生、木村昴という、何だろこの10年前の売り出し人気若手声優みたいな布陣は。全員今も活躍しているけど、この並びになるとなんか懐かしさを感じる。別に10年前が下手だったというわけではないが金元寿子、豊崎愛生の演技力がレベルアップしていて驚いた。2人ともブイブイいわしてた時より明らかに表現力が上がっている。逆に松岡くんの過剰演技が残念だった。常にギャーギャー怒鳴っているだけなのは違うのでは。キャリア初期の段階で安定した演技力だった一方で昔から過剰演技と言われていたけど、そこからあまり伸び代が無かったかのように感じられる今作の演技は残念だった。
三樹夫

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