三樹夫

オッドタクシーの三樹夫のネタバレレビュー・内容・結末

オッドタクシー(2021年製作のアニメ)
3.8

このレビューはネタバレを含みます

このアニメはセイウチのタクシー運転手が主人公で、色々な乗客を通してみる悲喜こもごもの人間模様(動物模様といっていいかもしれないけど)のクライム群像劇となっている。このアニメを観ていると作っている人こういうのが好きなんだろうなというのが読み取れる。
まず第一に漫才とかすごく好きなんだろうなということ。キャラクター同士の会話がまるで漫才かのような掛け合いになるように意識して作られているし、ダイアンやミキなど芸人が声優にキャスティングされていたり、作中に芸人のサイドストーリーがあることからも、漫才とか好きなんだろうなということ推察される。
そしてもう一つは洋画が好きなんだろうなということ。これ元ネタはあの洋画かなというのがいくつかある。失踪した練馬区の女子高生を起点とした群像劇というので『ツイン・ピークス』を思わせるし、あのキャラとあのキャラが絡み合ったクライム群像劇というのはタランティーノ、コーエン兄弟、ガイ・リッチーの群像劇作品を想起させる。具体的な作品名を挙げれば『パルプ・フィクション』、『ブラッド・シンプル』、『ミラーズ・クロッシング』、『ビッグ・リボウスキ』、『ロック、ストック&トゥー・スモーキング・バレルズ』、『スナッチ』といったところか。会話の内容からも今でも数多くいるタランティーノフォロワーのテイストを感じることが出来る。また不眠症のタクシー運転手というので『タクシードライバー』や、タクシー運転手と色々な乗客との会話劇で『ナイト・オン・ザ・プラネット』を思わせる。こういった好きなものをとにかくぶち込みましたといった作品なのだがアニメとして成立するにかみ合わせが悪くなっている、好きゆえの弊害が出てしまっている部分もある。

このアニメで一番気になったのは漫才を意識した会話だ。キャラAの話のターンが終わる直後にかぶせるようにキャラBの話のターンがスタートする、間を詰めたテンポの良い会話のやり取りは聞いていて楽しい。しかし上手い言い回しをしようと、フレーズを盛り込もうとあまりにも狙いすぎな会話に思える。テレビアニメを単に90分以上に拡大すれば映画になるのかというとそれは違うように(所謂大きいテレビ、代表例を挙げれば『うる星やつら オンリー・ユー』)、漫才やコントを30分に拡大すればアニメになり、60分に拡大すればドラマ、90分以上に拡大すれば映画になるのかと言えばそれは完全にNOだ。松本人志も映画で失敗している。このアニメの漫才を30分にしているだけ感が強いのは、作中キャラが漫才的なツッコミを入れる点にあると思っている。『ザ・シンプソンズ』、『サウスパーク』やシット・コムなどは漫才的なツッコミはなく基本ボケっぱなし。それを観ているとアニメ、ドラマ、映画において漫才的なツッコミは合わないのではないかと思う。
個人的にそのクールに放送される深夜アニメはできる限り観るということを過去にやっていた時には(『まよチキ!』から『プラスティック・メモリーズ』がやってた時らへん)、日常系や萌え系のアニメでも漫才的なツッコミを入れている作品を結構観てきた。酷いものになるとツッコミが滑っているというとんでもない地獄と作り手のギャグセンの無さが曝け出される、観ていていたたまれないものすらあった。ボケたらいちいち律儀にツッコむ作品は、ボケたら毎回ツッコむものだと思っていることそのものがギャグセンの無さを表しているように思う。その当時の滑りツッコミ二大巨頭は、ツッコミを入れることで今ボケましたよ、今のボケはこういう類のものですよという解説系と、『銀魂』をさらに劣化させたようなボケ系ツッコミが(『銀魂』系ツッコミはワードセンスで魅せるフレーズ系と言えなくもないが)だったが、『オッドタクシー』のツッコミは全部が全部そうというわけではないが、流行りのフレーズ系の要素も散見される。
フレーズ系とは「高低差ありすぎて耳キーンなるわ」や「歯がカバの本数」などが代表例の、ワードセンスが要求され、活字にしても面白いというもの。そのフレーズだけ抜き出せば成立してしまうのでSNSに記入しやすくて相性が良く、何ならそのフレーズさえ言っとけばOKなので誰でも真似できるため(巷では千鳥の真似して滑ってる人をたまに見かけるが)、SNS全盛のここ近年流行なのも当然かと思う。個人的にフレーズ系の元祖は紳助ではないかと思っていて、『紳竜の研究』などを観ていると漫才中の一文字の違いにもこだわる様子を話しているし、例えば行列でも小柳ルミ子が側転をした流れから住田弁護士も挑戦というように磯野貴理子が囃し立てた際には「構造上無理」などフレーズを用いており(別の回では丸山弁護士から「言葉がよく練られている」と褒められていた)、また彼が後輩の芸人を褒める時はフレーズ的な見地から褒めることが多かった。松本人志には「ボソっと言うその一言がセンス良い」とフレーズ的見地から褒めていたし(松本はガチガチのフレーズ系というわけではないが)、くりぃむ上田のことも褒めているし(例えツッコミ≒フレーズ系)、山里も褒めていたし、千鳥も褒めており、自身と笑いの感覚が似ている芸人を褒めていた。千鳥に関しては『松紳』の頃から褒めており、当時はなぜ千鳥をそこまで持ち上げているのか分からなかったが、今や千鳥がフレーズ系の代表格になっているのを見るに自身と同じフレーズ系であることを見抜いた先見の明があったのだなと思う。千鳥は『北斗の拳』の例えツッコミをたまにし、フレーズとして「山のフドウ」や「南斗五車星」がチョイスされるが、『北斗の拳』を全く知らなくても、なんか知らんけど面白い字面で笑えるようなワードをチョイスしており、そらフレーズ系の代表格になるわと感心する。
ただしフレーズ系をアニメのキャラの中の会話に入れられると狙っている感、作り込んでる感が出てノイズになる。いくらうまい言い回しやワードを入れたところで、漫才を30分に拡大しただけではアニメとして成立しない。このアニメを観てツッコミはアニメ、ドラマ、映画には合わないことを再認識する。漫才などが好きなのは伝わってくるが、その結果会話の作り込んでる感、狙っている感が出てきてしまいノイズとなり、好きなことが弊害となって表れている。ただそれも後半に行くにつれクライム群像劇が主体になっていくので、単純に漫才的な会話が減るためにあまり気にならなくなるが。

そして声優にお笑い芸人を起用したことが成功しているかどうかだが、個人的には上手くいかなかったように思う。過去の例を挙げれば、『じゃりン子チエ』でも関西弁の芸人を声優として起用していた(特に劇場版)。このアニメも『じゃりン子チエ』の両作とも声優として起用された芸人の声優としての演技力が高い人ばっかりであったかと言えばそうではないと思う。『じゃりン子チエ』は大阪の下町を舞台に登場人物がほぼ関西弁オンリーなのに対し、『オッドタクシー』は東京が舞台で標準語の登場人物が大勢いる中に関西の芸人を声優として起用し、また関西出身であっても標準語のキャラの声を当てるということで、浮いてしまうというか、違和感が出てきてしまったように思う。津田が声を当てていたキリンが作中一番のいい奴だったのは笑ったけど。ネコのアイドルとの関係は観ていてめっちゃいい奴やんと思った。

このアニメの洋画的な要素というか、話的な要素に関して、まずどうしても思ってしまうのは、こういう群像劇ではよくあることだが描かれる人間関係が狭くないかということ。あのキャラとこのキャラはこういうようにつながっていたと、全キャラが何らかの関りを持つすごい狭い世界になってしまっている。We Are the Worldネタも、このネタが通じる同じ趣味嗜好を持った人のみ、自分と同じような人間だけの世界という他者のいない閉じた世界に思える。悪く言えば自分の世界の中で動物の人形を使った人形遊びのように感じてしまう。まあ同じ趣味嗜好を持って話が通じ合う人と話すの楽しいのは分かるけど。We Are the Worldはジェームス・イングラムも捨て難いぞとか、メイキング観てたらマイケル・ジャクソンが常に1人だけ離れた場所にいて彼がシャイなのがよく分かるとか、じゃあDo They Know It's Christmas?はどうなんとかでキャッキャいう楽しさでしょ。
このアニメの動物たちは主人公からはそう見えていたというだけで、実は人間だったというサプライズがあるが、観ていてなぜ登場人物が動物なのかという意図を考察したら、早い段階で主人公からは動物に見えているだけなのではという仮説は思い浮かぶので、そこまで大きなサプライズにはならないし、何より主人公がいないところでも(三人称視点でも)キャラが動物として描写されているのは都合よく作っているな思う。主人公の目には動物に映っていただけということをしたかったのであれば、サプライズが行われるまではすべて主人公の一人称視点で話を進めなければいけないのでは?こういった所々で都合がいいというかガバガバなこところがある。
白川に至っては完全な便利キャラになっている。主人公のピンチにカポエラで助けてくれたり海から救い出してくれたりと、白川って何者というご都合な便利キャラになっており、さらに主人公に好意を抱いていることでメアリー・スー的なキャラクターにすら思えてくる。ドライブレコーダーもあんな面倒くさいことせずに反社グループはさっさと主人公拉致って出せと脅しかければよかったのに。拳銃を警官が無くしてものんびりしてるし、クライム群像劇をやるために都合よく作られてガバガバになっているところがある。

SNSでバズりたい大学生、オンラインサロンでの信者商法、課金ソシャゲで身を崩す若者、マチアプでスペックを盛るおじさん、パパ活美人局、貧困家庭出身、片親、虐待児、DV共依存、売れて相方を切る芸人、芸人からタレントへの転向、誰も傷つけない笑いか傷つける笑いか(二元論で極端だなと思った)等々、昨今の扇情的な話題が詰め込まれている。練馬の失踪女子高生の真相や誰が三矢ユキを殺したのかなど、謎を散りばめ次話が気になる作りで、一気見したくなる楽しさは確かにあった。個人的にはお笑いもクライム映画も好きだし。後、やっぱり動物は可愛い。
三樹夫

三樹夫