三樹夫

機動戦士ガンダム0083 STARDUST MEMORYの三樹夫のレビュー・感想・評価

3.1
宇宙世紀0083、一年戦争から3年後、ジオン残党殲滅の極右組織ティターンズ設立のきっかけとなった戦いをめぐるZへの橋渡しみたいな話だが、このアニメのコンセプトはガンダムで『トップガン』とトレンディドラマをやるということ。カッコいいMSいっぱい出してさ、なんならガンダム同士を戦わせてさ、ニュータイプ理論みたいな小難しいことはなしにしてさ、『トップガン』みたいなゴキゲンな感じにしようぜというアニメ。『トップガン』などの80年代超大作アクション洋画の軽薄短小でゴキゲンな雰囲気と、トレンディドラマのような私の恋愛感情こそ何よりも一番という恋愛至上主義な雰囲気が合体して、なんか恥ずかしく粗雑な感じになり、作画に金がかかっているがストーリーは雑なものが出来上がった。

作画に関しては観ていてやっぱOVAだけあって金がかかっているなとなり、しかも後半からさらに力入れ出すという豪華な作画。ZのガンダムMk-IIとサイコガンダムを抜きにすればシリーズ初めてのガンダム同士の対決、登場するMSも直線的なサンライズ的カッコいいロボット、後半にいくにつれてMSもものすごいゴテゴテしだし巨大化するという足し算的なMSデザインは、金がかかりまくった作画に支えられ足し算的な楽しさが確保されている。

『トップガン』意識は明らかで、主人公たちがパッチ付きフライトジャケットを着ているのはトムクルが着用していたMA-1だし、訓練生がグループ内で競争しガンダムに乗るのもそう、ニナはまんまケリー・マクギリスのチャーリーだ。『トップガン』に限らず80年代ハリウッドの超大作アクションのノリなのだが、そのノリをガワだけ持ってきたためキツい感じになっている。
モンシアは80年代ハリウッドの超大作アクションに出てくる新人をいびってくる嫌な先輩というステレオタイプなキャラそのままだが、半端じゃないレベルのクズな上に、実はいいところもあるだったりの好感の持てるような活躍シーンはなし。軍はこういうクズが幅を利かしているという風刺的な意味もなく、80年代ハリウッドの超大作アクションにはこう奴いるよねでガワだけ持ってきているため、ただクズな人がそこにいるというだけになっている。
女キャラへの接し方は全体的に酷く、気持ちの悪いマッチョ主義が発露し下品なナンパみたいな接し方が延々続く。基本的にこのアニメの女キャラは、こんな美女をものにしたわという男にとってのトロフィーでしかない。

トレンディドラマ要素に関しては、三角関係のドラマチックな恋愛や恋も仕事もみたいな共感性羞恥を感じるキツい雰囲気だけではなく、明らかに後付けのニナとガトーの関係を設定として持ち出した上に、「そういうことじゃないのよ」のとんでもない台詞が飛び出す。いや今まさにすんごい数の人間が死のうとしているのに、それを引き起こした陣営の肩を持つような発言はだめでしょ。私の恋愛感情>この後死ぬであろうたくさんの人、になっているのでそらこんなヒロイン嫌われるよ。その後ニナは地球に降りて(どの面下げて地球に来たんだこいつ)、直前に葛藤ある表情をするものの笑顔で締めるというラストなので、作り手はあえて嫌われるヒロインとしてニナをこのようにしたのではなく、嫌悪感を感じさせる意図はなかったが結果的に嫌われることになったのだと思う。ニナとガトーは作り手のキャラへの認識どうなっているのと思うトンデモキャラなのだが、1話でガトーを見ても特にリアクションのなかったニナが、ガトーと関係があったというのはどう考えても後付け設定と思わざるを得ない。こういうのを見るに、0083のストーリーは雑に作っていたんだと思う。明確なビジョンがあったわけではなくわりかしその場しのぎのノリで作っていたか、もしかしたら途中から横やり入ってグダグダになったかのもしれないが、どちらにしても雑なストーリーだなと思う。
ルセットとかほんとポッと出のキャラが出てきてはいきなり死んで、挙句死ぬ間際延々喋るという、ルセットは0083の雑さを象徴するキャラの1人だと思う。それにシーマのちびまる子みたいな喋り方はなんやねん。
0083は艦長室やラビアンローズのコウの待機部屋など一部屋一部屋がやたら無意味にデカくて、どんだけスペースに余裕あるんだと、こういう所も雑いなと思うが、これはトレンディドラマでよくあるこいつら家賃何十万の部屋に住んでるんだという、トレンディドラマの主人公たちが住むデザイナーズマンションの広くてオシャンティな部屋のイメージなのだろう。

今やテロリストと言われるガトーだが、というか9.11以降でなくても元々テロリストでしかないキャラだが、ガトー含めデラーズ・フリートの何がやりたいんだコラ感。星の屑作戦を持ってしてどうしたかったんだよ。ア・バオア・クーで暴れ足りなかったから暴れただけやん。ガトーが自分自身のことを忠義の男と思っているのはいい。しかし作り手がガトーを忠義の武士のような男と思うのはだめでしょ。やってることは狂信的なテロリストでしかないし。このアニメはガトーってテロリストだよなという視点がなくて、作り手が本気でガトーを忠義の武士のような男と思っており視野狭窄すぎる。9.11以降変わったと言っても70年代80年代も大規模なテロあるし、ただ単純にキャラへの認識が甘い。ガトー含めデラーズ・フリートはギレン派で、挙句ギレンを信奉しているような組織で、ジオンってナチスだしもっと言えばギレンはヒトラーなのだが、ガトーをキャラ付けするにあたってそういった認識は一切なかったのだろうか。0083はジオンを脳内美化しすぎで、それが狂信的なテロリストを忠義の武士と描いてしまう要因になっている。後は単純にキャラへの認識が甘い。9.11以降云々とかじゃなくて、元々ガトーはトンデモキャラでしかない。

コウのガンダム搭乗の流れを見るに、やっぱりガンダムに乗る理由付けと説得力って難しいんだなと思う。一応コウは士官学校出のエリートで、ガンダムに乗ってもおかしくないという補助的な設定がされているが、0083の主人公がガンダムに乗る流れは80年代の洋画とかでよくあるようなやつと脳内補完と自己暗示的納得を要求される。
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