社会の歪みは犯罪を多発させ
構造をより複雑化させていく。
それに対し、法の是正は遅れ
救いの手は間に合わない。
そして警察内部にも対立が…
官房長失いし特命係決死の戦いは続く
「相棒season9」
警察庁復帰を振り切り、特命係の神戸尊として正式に2代目相棒となったシーズン9。プレシーズンから数え10周年となり、映画版第二弾がリンクしたシーズンでした。故に小野田官房長の姿はなく…(T_T)。更に社会性を増した脚本が増え、暗い世相を映し出した作品が多く、凶悪な鬱回がブチかまされ、神戸尊を陰の相棒とするイメージが付き始めたシーズンでした。またその反面、コメディ的な作品も暗いシーズンを薄めるように入れ込まれていました。因みに小野田官房長がいなくなり、特命係を擁護してくれる、又は止める人物がいなくなり、その点はやや深みが消えていますが…輿水泰弘、太田愛を始めとする脚本チームが出色の出来でカバーしています。
社会性と言う点から語ればやはり第8話「ボーダーライン」からになります。不況、氷河期、非正規、宿無しそして…と言うこの恐ろしい方程式はこの時代を生きた一般市民なら誰にでも可能性がありました。この話は特命係はまるで語り部です。社会の実態を描き出すための。私は非正規を派遣する会社、雇う会社の手伝いをしていました…この内容は余りにもリアルです。当時派遣でも寝る場所がない人を助けられると思って、仕事をしていましたから…。
更に…第13話「通報者」…母子家庭の生活保護受給者の話は身につまされます。生活保護は必要のないものは持ってはいけないんですの台詞…。家があったら母子家庭でも生活保護はでないし、売れ!と言われます。アパートに行けば家賃を取られるのに…。転落するように出来てます。少年の嘘はあの日の自分の怒りと同じでしょうか…。神戸尊も同じ様な境遇かなと…あの優しさは。神戸尊は努力型の秀才ですからね。
悲痛な話は続きます…被害者遺族の悲しみ、憎しみ、そして復讐を描いた第10話「聖戦」。南果歩…驚愕の復讐鬼主婦役です。爆弾魔の凄まじい執念。絶対に…捕まらずやり遂げる…。南果歩さんの憑依型演技の最高傑作じゃないかなと。あまりの鬱回にこれ元旦にやるもんなのかいと…。第15話「もがり笛」も角度を変えた被害者遺族の怒りを描いた作品。名優火野正平さんがベッドに寝たきりで名演。俺が彼女に鬼を住まわせた…の台詞が印象的でした。
そして加害者も前科と言う罪はついて回ります。そこから逃げる事は出来ない訳です。恒例の陣川警部補回が2回あるんですが、その一つが第5話「運命の女性」。更生しようとした女スリが前科で脅され…その女スリに惚れます、陣川(笑)…。その罪ゆえ陣川から離れていく京野ことみ演じる女スリが悲しい話。これはまだライトで…第14話「右京のスーツ」の小松政夫さん演じるテイラーさんは…更に悲しい。右京さんの拘りシリーズはプロとの対決になりますがこちらも小松政夫さんが良いです。そして過去から逃れられない代表は…神戸尊編最強の敵、本田篤人。第18話「亡霊」にて復活。まさかの超法規的措置…小野田官房長の最後の仕事で別人となって釈放と言う…本人はもう娘だけ心配なのに…過去の罪は追ってきて。古谷一行さんの苦悶の表情が素晴らしく、凛々しすぎる木村佳乃の片山雛子もまた見事。テロリスト、公安の激突、暗躍する裏切者たちと特命係も危機となるサスペンスとしても面白い作品でした。
官房長が亡くなる映画版に繋がる第9話「予兆」。前シリーズから警察庁対警視庁の図式が描かれていましたが、こちらもその一本。まさかの無名時代の吉田羊さん&見事な映画版への繋がり。警察内部の争いや不正は今作も目立ちます。第4話「過渡期」は時効問題から起こった事件。所轄の大雑把さにも驚きますが…。柳ユーレイさん出てましたね。別役で冠城編で再登場します。第6話「暴発」は警察内部と麻取の取引が杉下右京の正義の逆鱗に触れるお話。神戸尊のスタンスが見える話ですが…うーん…。神戸くんが軽く見えてしまうのはどうかなぁと。確かに僕は神戸くんが一番、右京さんとスタンスが違っていたかなとは思いますが…。更に圧倒的に面白い語り口の第16話「監察対象杉下右京」。監察官の聞く内容から物語が紡がれますが…よもやの展開で警察内部の問題が浮かび上がリます。因みに歴代最高視聴率はこの回。
語り口の面白さなら…時間をリアルタイムに合わせた米映画真昼の決闘形式で作られた第7話「9時から10時まで」。殺人事件を追う右京さんと詐欺師と対決する神戸くんがリンクして集約されていく物語が面白い。こちらもコメディでしたが第12話「招かれざる客」も二人が別行動ながらコメディ並に演じ犯人を追い詰めると言う展開。犯人たちがマジで特命係がコメディと言う珍しいパターン。更に第5話に続いてなんとシリーズ2回目の登場第17話「陣川警部補の活躍」もコメディでしょう。今シリーズ重すぎるので陣川くん2回目の登板なのかなと。
一見コメディに見える題名でも加害者も被害者も余りにも無残な内容第11話「死に過ぎた男」。ドラマ的にも良く出来てますが…まぁ何とも勘違いが重なる恐ろしさと言うか…。ドラマ的に良かったのは叙情性の高い太田愛脚本回第3話「最後のアトリエ」。絵画ミステリーとしてギャラリーフェイクのようでした。
定番、政治家、隠然たる力を持つ大物と戦う特命係が見れるのは第1話、2話「顔のない男」。第1話のラストまで全く繋がらなかった話が繋がれ、2話で一気に物語が進む感じで衝撃のラストが…。ゲストは相棒シリーズの極北にいる石原軍団から徳重聡さんが出演。アクション俳優らしくビルからロープで降りますからね(^^)。
シーズン9はやはり大きな転換点であり、小野田官房長が画面にいないこと、そしてたまきさんこと益戸育江さんが最終回で役ごと降りてしまうと言う事件が起こりました。ただこのシーズンが最高視聴率を叩き出しているのは事実でここから観始めた方も多いのかもしれません。冒頭で語ったようにシリーズ内でも圧倒的な鬱回が存在し、暗めですが裏を返せば真面目でハードな回が多く、新たなファンをより増やしたとも言えます。神戸ファンがかなり多いのも事実。客演回数も最も多いですからね。