ラスコーリニコフ

ファイトソングのラスコーリニコフのネタバレレビュー・内容・結末

ファイトソング(2022年製作のドラマ)
3.8

このレビューはネタバレを含みます

新時代の価値観に合う恋愛ドラマであった。

花枝は空手の才能がありながら、交通事故でトップ選手としての生命を絶たれる。それだけでなく、聴力を失いかねない状況に陥る。孤児院で育っており、経済的にも厳しい状況で、自殺を考えてもおかしくはない。ただ、孤児院のメンバーと血の繋がりのない家族となっており、抱え込みがちではあるが自殺までは振り切れない。
他方、芦田は高校生バンドとして一世を風靡するが、一発屋で終わりかけており、実際に自殺をするか思い悩んでいるほどだった。
つまり、最近視聴率狙いであるような、冴えない女優とイケメン俳優を配置して、クサい台詞を言わせるということはせず、現代の悩める若者、特に恋愛などする余裕もないという若者を象徴する骨太な恋愛ドラマとなっている。

話の進展自体はドラマチックではないが、各登場人物の心理が丁寧に描かれる。全てのキャラの過去を掘り下げており、基本に忠実である。そして、花枝と芦田の恋愛はファイトソングという曲に結実し、大団円に向かっていく。
他方、細かい演出が行き届いている。例えば、花枝のイヤホンは、この時代にそぐわない長いコードがついているが、これは彼女の貧しさを表現している。

このドラマの魅力は、言うまでもなく清原果耶の演技力だ。彼女は静かな感情の動きを表現する才能があり、本作のように純文学のようなシナリオと相性がいい。彼女の演技は、下手な役者が陥るような誇張がない。全てが自然になされ、まるで役に憑依しているかのようだ。間違いなく、同世代の中で頭ひとつ抜けた存在である。

残念だった点は、ファイトソングという曲に具体性がなかったことだ。オープニングのBGMがファイトソングであることは非常に良い帰結だが、肝心の歌詞がなくては意味がない。これは最近のアニメであれば必ずすることであり、日本のドラマはアニメに水を開けられていると言わざるを得ない。ずっとスタートラインを聞かされるのでは飽きてしまうだろう。

以上長々としてしまったが、丁寧な心理描写や細かい演出が好きなドラマ通にはオススメである。