トケグチアワユキ

初恋の悪魔のトケグチアワユキのレビュー・感想・評価

初恋の悪魔(2022年製作のドラマ)
4.3
全話完走後レビュー
2022. 11. 15.

これはあくまでも〈私にとっての〉という枕詞が付くことを先にお断りしておく。
坂元裕二の書くドラマに、警察とか冤罪とか多重人格とか、ノイズにしかならない気がする。

もっとどうでもいいって言っちゃ悪いけど、変換可能な、たとえば「まめ夫」だったら疎外感を感じているデザイン会社社長とか、「カルテット」だったら無職もしくはバイト程度で食いつなぐ落ちこぼれ楽団員とか、なにか別の設定で書き換えてもいいストーリーの中で、3人の元夫との関係、こっそり会社を辞め蒸発した夫への思いなんていう微妙な人間の機微を描写していくことにこそ、彼の本領はあるんだと思う。

このドラマが「まめ夫」ほど話題にならなかったのは、坂元裕二の手腕というより日テレドラマ制作局のプロデュースワークだし、現場制作受けの制作会社のテイストの差で、佐野亜裕美がもしもプロデューサーだったら、設定自体をこういう形にしなかったんじゃないか。
正直、日テレドラマの限界がここにあるように感じる。
一局のドラマ部門をこの作品をもってブッタ斬っちゃうのもどうかとは思わないでもないけど、ただやっぱり日テレドラマ部門の文化と言わざるを得ないと思ってる。


俳優陣の顔ぶれは本当に素晴らしく、このドラマが大成功に終わらなかったのがつくづく悔やまれる。
中心の3人、仲野太賀/林遣都/松岡茉優の関係性の中での息の詰まるようなやりとりは、ヒリヒリするほど緊張感が漲っていた。
これが単純に負け犬リーマンの三角関係の中で行われていたら、恐ろしいほど美しい恋愛ドラマになっていたのは想像に難くない。
私が観たい坂元ドラマはそういうドラマなのだ。
特に仲野太賀の〈堪える〉演技は、観ているこちらが同化し過ぎてしまい、目を伏せてしまうことが幾度とあった。
俳優として常に2-3本を同時進行させているような状況で、確かにあの演技を観てしまうと制作陣が頼りたくなる気持ちもわからないではないが、心を休める時間を大切にして欲しいと他人ながら心配になる。

メインの3人を取り囲む強いキャラの田中裕子をはじめとするベテランや中堅、そしてその外側に配置される演技巧者の面々。
演技を堪能するという意味では圧倒的。
正直、ストーリーなんてどうでもよくなってしまう瞬間が、あまりにも多すぎた。




*******************************
林遣都、仲野太賀、松岡茉優、柄本佑、佐久間由衣。
この5人によるオトボケ群像劇であって、警察モノのドラマでもお仕事ドラマでもましてや恋愛モノでもなさそう。
舞台立てなんて、坂元裕二の前では意味を持たない。
日テレのプロデューサー側から警察モノでとか言い出したとしたら、いかに今のドラマ業界が見えてないかの証左だし、坂元裕二側が警察モノでと言い出したとしたら、日テレへのアテコスリじゃねぇの?と穿っちゃうくらいの換骨奪胎ぶり。
やっぱ坂元裕二って、うしろ向いて舌だしてると思うなぁ。
絶対ハイとは言わないだろうけど。

全話完走後、改めてレビューとスコアつけます。

********************

追記 2022.10.12.
3ヶ月遅れでやっと第3話を観ている。
太賀と茉優のコンビにドキドキする。