都内で心療内科を営む医師・中岡俊子(伊勢佳世)は患者である関口渉(45)を連れて稲生心療内科にやってきた。関口は、半年前、妻・彩佳(享年32)を病気で亡くしてから、身体に異変が現れるようになったという。吐き気、めまい、そして異様な息苦しさ。いくつかの病院で受診したが、原因は全く見付け出せなかった。さらに数週間前から、死んだ妻・彩佳の幽霊を見るようになった。最初は夢枕に立ち、そのうち鏡の中やガラスなど、所構わず写り込むようになった。関口は精神を病んだと考え、中岡のクリニックを訪れたのだが、中岡は、これは「怨霊の仕業」の可能性が高いと考え、稲生知性のクリニックに連れてきたのだった。
――「では診察を始めます」。精神を集中し、眼を一度閉じ、開ける“心霊内科医”の稲生知性(じろう)。すると稲生の視界、関口の背後に顔色の悪い女の怨霊が現れた。恨みがましさをたたえた双眸(そうぼう)を暗く光らせている。「君は誰だ」、稲生が尋ねると、怨霊は関口の妻・彩佳だと名乗った。稲生が女の怨霊のことを告げると、関口は恐怖に震えだした。「なんで彩佳が…」。すると彩佳の怨霊が叫んだ。「おまえに毒を盛られ、殺されたからだ!」。夫である関口は、毎日少量の毒を自分に飲ませ、病気に見せかけて殺したと、彩佳の怨霊は言った。稲生が“通訳”をすると、関口は言下に否定した。「彩佳は病気で死んだんです。医師の死亡診断書も持っています!」。しかし彩佳の怨霊は譲らない。「嘘だ!」。すると突如、関口は首を押さえ、悲鳴を上げた。稲生の視界では、怨霊が関口の首を鬼の形相で締め上げていた。関口は子供のように泣き叫ぶ。「助けてくれ…」。稲生はブラインドを開けるため窓際へと近付く。ブラインドを開け、日の光を強くすると怨霊の力が弱まり、姿が消えるのだ。ブラインドを開けようと手をかけたその刹那、一瞬だけ、関口の首を締め上げる彩佳の手が増え、3本に見えた。涙を流す関口。「なんでこんなことを、俺は本当に愛していたのに…」。果たして、嘘を吐いているのは、人間か、怨霊か?関口は彩佳を殺したのか?それとも彩佳は違う人間に殺されたのか?もう一つの“手”の意味は?――稲生、そして人間と怨霊の攻防が始まる!