明宏

11.22.63の明宏のレビュー・感想・評価

11.22.63(2016年製作のドラマ)
4.2
はあー面白かった。
不思議だ時間って。この作品はケネディ暗殺を食い止めるべく過去にタイムスリップするというシンプルな設定のドラマなんだけど。このドラマをじっと見ていると心臓や手首や鼻の奥の血管がギュッと縮こまるような瞬間があって、それはまさに時間の描写だった。現実、タイムスリップなんてものがないんだってことはみんなわかっていて、しかし我々の関心をいつまでも離さない設定としてあり続ける。それは当たり前のように人が後悔を繰り返すからかもしれないし、もしくはこの不思議な「時間」という普遍で不可変なものへ想いを馳せた時に脳裏を一瞬吹き去る色や匂いや音があまりにも愛おしいからかもしれない。このドラマでは古き良きアメリカではなくて、古くて良いし悪いアメリカが描かれていて、その細部の作り込みがズブズブとこの世界に僕らを飲み込んでいきます。

ケネディ暗殺を阻止する主人公は何の変哲もない高校で国語を教える教師なんですけど、あまり彼のバックグラウンドは語られない。合衆国の1つの分水嶺であったあの時間に遡る彼にはそれらしい資格があるわけでもなくただ、タイムスリップが出来たからということなんですね。それでも僕らはその彼の行く末を見届けんとするんですけど、なかなか脇道にそれたり、準備が丁寧なのか疎かなのか、かなり危うい場面もありつつそこは「過去が抗う」という一本槍でカバーされていきます笑

以下ネタバレありです。


このドラマ、ケネディ暗殺を阻止するという本筋のサイドでは人種差別やミソジニーの描写も多分に含まれていて、むしろそっちがメイン?という感じもしてくる。
暴力を振るう男と束縛される女という構図が繰り返し出てくるんだけども、その過剰なDV男たちとの対決シーンが毎回実物。じわじわとこのバッドガイズの奇行を見せていく演出は、唾ごくごく飲みながら見ました。男性から女性への暴力をここまで描けるってのは海外ミステリーの素晴らしいところだなと思った。日本のミステリーにこれが無いわけではないんだけど、土壌としては弱い?というか、その問題が描かれることに対しての感度があまりにないんじゃない?って気がします

スティーブンキングらしい、20世紀のニュータウンホラーの成分が時代改変ものの中にギュウギュウに詰まっていて、大満足でした。
それでいて、これでもかというラストのパーティシーンの迫り来る時間の切なさ。裏表で切り離せない幸福と虚無が迫ってきて、たかがドラマにこんな気持ちにさせられるなんて…ってしょんぼりした顔で身終えることになる。
明宏

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