明宏

ウォッチメンの明宏のレビュー・感想・評価

ウォッチメン(2019年製作のドラマ)
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見直した。第一話でサブリミナルにさまざまな階層の情報を画面に入れる原作のアラン・ムーアの手法がそのままドラマに起こされているのが見事。エンディングで曲が流れるところも、コミックの各話の最後一コマが引用文であることのトレースになっていてここも唸った。
エピソードとしてルッキンググラス、フーデッドジャスティス、Dr.マンハッタンをそれぞれ扱った回がかなり面白かった。みんなが褒めているようにフーデッドジャスティスのキャラクターの読み替えはすごかった。1回目の視聴の際はフーデッドジャスティスの設定に矛盾があるんじゃないかな?と思っていた。というのも、原作で初代ナイトオウルが出版した自伝「仮面の下で」の中でフーデッドジャスティスは真珠湾攻撃まではヒトラーと第三帝国の支持を公言してたって書いてあって、HBO版のドラマのキャラと一致しないんじゃないかなと。で、もう一度ドラマをみて確認してみると、彼はタルサ暴動で両親に逃がされた際裏紙に書かれた「この子を見守ってください」というメッセージを持たされる。で、これをリーブスは105歳まで後生大事に持っているわけなんだけど、この紙が何の紙かというと、第二話で彼の父親が第一次世界大戦で外征軍としてフランスに行った際にドイツ軍が撒き散らしたプロパガンダだったと。そこにはアメリカで公平に扱われない有色人種の兵士たちにドイツ軍に寝返るようにと書かれている。ドイツでは有色人種も公平に扱われるからと。というわけで、リーブスは7歳からずっと大切にしてきた父親のメッセージに付随したドイツ軍のプロパガンダも吸収していたので、少なくともアメリカが第二次世界大戦に介入する前後までは本気でヒトラーや第三帝国を支持していたのかもしれない。と2回目の視聴で思った。実際フーデッドジャスティスをフィーチャーした回の中でナチスのアメリカ集会の切り抜きがリーブスの鏡に貼られていて、これはこの時点で親ナチということを示唆する要素なのかと思う。
不思議なのは、第二話の冒頭でドイツ軍がこのプロパガンダを翻訳させた軍の女性職員の名前がミュラーだったこと。コミックでフーデッドジャスティスの正体と目されていた東ドイツ出身サーカスの怪力男ことロルフ・ミュラーと同じ苗字。これに関しては考えてもあまり納得のいく説明がつかない。製作陣はコミックを相当読み込んで、とくにフーデッドジャスティス周りは徹底的に作り込んだはずだから。しかも、原作でロルフ・ミュラーは東側の工作員の可能性がありおそらくコメディアンに始末されたわけで、このプロパガンダを翻訳したミュラーも軍職員で英語まで出来るとなると繋がりがないわけない、というか製作陣の見落としとは考えづらいんじゃないか。
とまあフーデッドジャスティス考察が長くなってしまったけど、ルッキンググラス回のエンディングも良かった。真相を知った彼がイカへの恐怖心を馬鹿馬鹿しく思いながらも克服できないというあの人間味が良い。同じショットの中でテンポよくそのゴミ箱に第七騎兵隊が突っ込んでくるところも👌でルッキンググラスは死んだのかと思いきやちゃんと出てき直すところがかっこいい。

良いところがたくさんあるドラマの一方で、どうも物語の核となるレディ・トリューの描写がすごく薄いのが気になる。せっかく出てきたアジア系女性新ヴィランがこんな弱くて良いのかね?その割に旧作の白人男性ヴィランであるオジマンディアスにはこんなにたっぷり時間割いてあげちゃってるのもあまり納得がいかない。Dr.マンハッタンの能力が他人に分け与えられるという設定もどうかと思った。
記憶を失うことができるタキオンリングや、記憶を追体験できるノスタルジアという薬等都合のいい設定が悪目立ちしている印象も1回目の視聴と同じ感想。
このドラマの趣旨が原作コミックの要素をいかに捻って出力するか?というところにあるので、そのようなご都合主義アイテムが必要になってくるのもわかるので、なんか上手な説明がされて欲しかったな。

もう消されてしまったんだけどHBO公式サイトでこのドラマの周辺資料を掲載していてそれを見るとローリーは85年の事件の後苗字だけじゃなくヒーロー名も父親からとって「コメディエンヌ」と名乗ってたみたい。95年にナイトオウルとともに逮捕されて司法取引で自警団取締部隊のリーダーになったとのこと。
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