YasujiOshiba

今際の国のアリスのYasujiOshibaのレビュー・感想・評価

今際の国のアリス(2020年製作のドラマ)
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コヴィッド19が勢いを増している去年と今年の「際」に見るには絶好かもしれない。楽しめました。

それにしても既視感がある。ぱっと思い出すのは『ガンツ』とか。いずれにせよ、異世界のゲームのなかに命をかけるという話なんだけど、うまく作られてるのは、異世界に入る前の現生をうまく物語に反映させくるところ。ゲーム的世界から現実を逆さに映し出してみようという魂胆なんだろうな。そいつが物語をドライブさせている。それも少しずつ小出しにしてくるあたり、いい脚本だと思うな。

実は最初タイトルが読めなかったんだよね、恥ずかしい話。「今際の際(いまわのきわ)」の「今際(いまわ)」だったわけね。英訳では Alice in borderland 。なるほど「今際の国」は「borderland」なわけだ。もちろん、生死の境のボーダーでもあるのだろうけど、現実とゲームのボーダーでもいいし、人はそうやってパラレル世界の際に入って初めて、いろんなことに気づくという意味でもいいんだろうな。

英語から連想するのは「不思議の国のアリス」なわけだけど、その主人公のアリスを演るのが山﨑賢人。アリスを男が演じるってのも面白いけど、彼の薄っぺらさが、周りの人間模様を見るためのリトマス試験紙みたいものなかもね。そのアリスにゲームの才能をあらかじめ与えておいたのは、まあ狂言回をさせるためでもあるのだろうし、うまくイニシエーションを通過してもらわなければならないという配慮でもあるのだろう。そのぐらいのご都合主義は許容範囲よね。

で、同じくらい薄っぺらいのがウサギの土屋太鳳。彼女、踊りはうまいし運動神経もバッチリなのだろうけど、ロッククライミングをやる筋肉には見えないかも。物語のほうも、父親との背景の描写がなんとも説得力がなくなってしまう。だって土屋ちゃん、ぜんぜん影をせおった女性に見えないんだもん。それでもまあ、横顔にキラリとさせるものがあるし、カメラ写りはよいから、狂言回しの主人公としては、これまた許容範囲。

抜群によいのは金子ノブアキの存在感。その存在感があるからボウシヤの背景が濃く見えるだな、きっと。だいたいホストクラブの帝王で、のちに帽子屋なんていうめちゃくちゃな設定も、彼の飄々としたキャラがあってこそ生きる。

このボウシヤの現世でのホストクラブの名前がビーチで、こっちの世界で再現したビーチが、実にリアルなビーチだというアイデアがよい。そしてビーチとなるロケーションがよい。滋賀県(プールや外装はロイヤルオークホテル、残念ながら2020年4月28日に倒産)や和歌山県(南紀白浜リゾートホテルのロビーや客室)だけど、ロケ地がよいと画像が生きる。

そして、そんな良いロケ地になにせ水着の美女をあれだけそろえてもらえると、ソレンティーノの『LORO 欲望のイタリア』(2018)には負けるけど、おじさんにはそこそこの眼福。

しかも引用される音楽がヴェルディの『ドン・カルロ』(1867)の第4幕のアリア「世のむなしさを知る神(Tu che le vanità conoscesti del mondo)」。これがまた歌詞とシーンがぴたりと重なる耳福。

ボウシヤの友人のアグニをやった青柳翔もいい感じ。かなり最初に登場してうまく伏線を敷いてくれている。肉体派のかなしさは、やはり肉体がなきゃどうしようもないからね。

それからチシヤをやった村上虹郎ね。この人雰囲気あるとおもったら、なんと村上淳が父でUAが母なんかいな。なるほど。調べてみると、河瀨直美の『2つ目の窓』でデビューしてるんだ。この作品未見なので、ちょっと気になってきた。

あとは女の子たち。最初のほうに登場したシブキの水崎綾女の色気がよい。どんどんゾンビ映画やホラー映画に登場してスクリームクイーンになってほしい。それから元警視庁鑑識課アンという設定の三吉彩花はおみ足とつんとしたアゴがよい。元アパレル店員のクイナをやった朝比奈彩は、トランスジェンダーの元空手ボーイというには少々無理があるけど、かわいいから許す。別格なのは仲里依紗。存在感だけで持っていってくれましたね。本人もあの演技するのきっと楽しかっただろうな。

とりあえず、ご馳走様。もう腹一杯。ゲームの続きは予告だけで十分かも。もし出たとして、また今回のような「際」にほりこんでくれたら、見るかもしれないけど...

その前に見るべきものが、きっとたくさんあるのだろうし、そもそも今日明日あたりからは、かんじんのシチリア祭りに戻らないといかん。
YasujiOshiba

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