きゅうげん

ウォッチメンのきゅうげんのレビュー・感想・評価

ウォッチメン(2019年製作のドラマ)
4.3
天才アラン・ムーアによる漫画史に燦然と輝く傑作グラフィックノベル『ウォッチメン』の、その後を描くドラマシリーズ。

ロバート・レッドフォードが大統領となり、ベトナムが51番目の州となり、スーパーヒーローによる活動が禁止された2019年のアメリカ。
オクラホマ州タルサの警察署長が首吊り死体で発見される。
主人公アンジェラは秘密裏に捜査を進めるが、白人至上主義団体やIT長者、行方不明のオジマンディアスから火星にいるはずのDr.マンハッタンまで、彼女のまわりでは世界を巻き込む深慮遠謀が渦巻いており……。


白人保守層・人種差別主義者側のディープステート化や、警察官の覆面化と超法規的活動(=スーパーヒーロー化)など、痛烈な皮肉のような反転はどれも2010年代後半当時の右派ポピュリズムの盛行、とくにアメリカでのゼノフォビアの爆発という世相に裏打ちされたものといえます。
タルサの大虐殺という歴史的事件から、その被害年金受給者がまた差別の対象となるリアルな現状まで、大小さまざまな人種差別描写がどれもキツくツラい。
白眉は第6話です。第二次大戦中の荒んだ空気のなか黒人警官の直面する絶望の数々が、元祖スーパーヒーロー=フーデッド・ジャスティスのオリジン・ストーリーに織り込まれる、凄まじくもあり素晴らしくもある一編となっています。

また、軟禁生活をエンジョイしてるオジマンディアスとか、パラノイアックだけどクールなルッキンググラスとか、スーパーヒーローキャラクターの面白味も色々ありましたが、個人的に見逃せないのはDr.マンハッタンにフォーカスする第8話。
相対性理論的な「鶏が先か卵が先か」パラドックスを二人の恋愛や人生のドラマに落とし込んだ上手な物語になっていて、「卵を割らなければオムレツは作れない」とオチに繋げる作劇はなかなかニクい。


ただまぁ、いわゆるアメコミらしいCGアクションがあるわけではないし、物語が基本的にひとつの街のなかで完結してるようなものだし、規模感がテレビなのはしゃーない。

……しかしとはいえ、本国での放映直後にジョージ・フロイド事件が起こりBLM運動が最高潮にいたることを考えると……。
日本でも海外でも、たとえばYouTube上の映画『ウォッチメン』(2009)のクリップにはロールシャッハ信奉コメントがいくつも。
もはや『マトリックス』のネオや『ファイト・クラブ』のタイラー・ダーデンなどに比肩する転倒したアイコンと化しており、その危うさにギョッとしてしまいます。
人間、スーパーヒーローに憧れたって、良くて二代目ナイトオウルかルッキンググラス。最終話終盤で僅かに映る、名もなきヒーローの人命救助が本来あるべき姿ですし、そもそもそれはマスクを被らなくても出来るはずの正義です。


…………てか全然関係ないけど、最終回のエンディングびっくりした。
『アイ・アム・ザ・ウォルラス』に、あんなカバーバージョンあるんすね!