シズヲ

警視-Kのシズヲのレビュー・感想・評価

警視-K(1980年製作のドラマ)
3.9
勝新太郎の恐るべき刑事ドラマ。アウトロー刑事の事件捜査を一話完結方式で描くという典型的な筋立てなのに、リアリティを重要視する勝新の作家性が反映されたことで異様な作品と化している。ニューシネマやヌーヴェルヴァーグ的というか、作劇性を削ぎ落として淡々と進行していく内容はジョン・カサヴェテス辺りを連想させられる。北野武は『顔役』など勝新の演出に多大な影響を受けているらしいが、実際本作を見ると納得してしまう。

現場での同時録音によって複数人の台詞や周囲の雑音を丸ごと拾っているらしく、音声の大半がボソボソと不明瞭。勝新のノンフィクション本によれば「警官が捜査内容を大声で喋るのはおかしい」などの理屈もあるらしい。また状況説明的な描写も徹底して排除されているので、粗筋はシンプルなのに毎度難解。更にはアップの多用や不親切なカメラワーク(画面の手前に物を配置して役者の姿を隠したりする)など、映像面のアクもとことん強い。「とにかく集中して見ろ」と言わんばかりに視聴者側の状況把握能力を求められる。“ながら見”ではまず内容を理解できないし、一エピソード見るだけでも相当の気力を必要とさせられる。どう見てもゴールデンタイムにやるような代物ではないし、結局打ち切りに遭ったのもまあわかる。

それでも予算すら超過して拘り抜いたという勝新の作風は未だに斬新で凄い。過剰な演出を取り除き、ほぼアドリブで構成したという内容は普遍的な刑事物とは一線を画す臨場感に溢れている。勝新を始めとする役者陣の生々しい演技も秀逸で、ひりつくような緊張感がドラマ全体を支配している(それ故に時折顔を出すユーモアでフフってなる)。不親切とはいえ確かな美学が滲み出ている画面構成も印象的で、半ば映画的な領域に突入しているのが面白い。山下達郎の楽曲などたまに挟まれる音楽はドラマ的ではあるものの、ここぞという場面で用いる演出とムーディーな曲調のおかげで中々に味わい深い。

アバンギャルドであってもカオスではないので、『折れた杖』などに見られる猟奇性に近い実験的演出は控え目。彼方のような混乱した前衛性は物にもよるがあまり得意ではないので、むしろ本作の方が比較的飲み込みやすかった。これを二時間近くやられたら流石に草臥れるとは思うけど、週一のテレビドラマなので尺的にもまだマシな塩梅に収まっている。まあそれでも疲れるくらいには体力を要するものの、中盤辺りからは音声も粗筋も多少捉えやすくなってくる(慣れもあるかもしれないが)。あと“本庁の辺見”の頑固で高慢ちきなキャラクターや警視の部下コンビの掛け合いなどは分かりやすく作劇的なので、その辺りのコメディリリーフ的なシーンは幾分か取っ付きやすい。思えば大ベテランで勝新とも付き合いの長い森一生監督回だけは普通の刑事物っぽかったなあ。

登場人物の話で言うと、勝新演じる主人公は警視には到底見えない威圧的な風体が強烈。なまじ『兵隊やくざ』みたいな見慣れた暴れ方もしないだけに、殆ど大物ヤクザのような凄味がある(部下コンビとの関係性も“親分と下っ端”に近い)。それだけに一人娘と一緒に食事するような人間味溢れる描写が印象深い。必殺手錠投げは作風に対して明らかに浮いているが、まあこれはこれで奇妙な趣がある。手錠投げるのは勝新的にトゥーマッチじゃなかったのか、あるいはドラマ的演出を捩じ込まざるを得なかったのか、後者だと信じたいなあ。中盤ごろには鳴りを潜めたのはある意味安心。

しかし本作が見れるのだから、原典とされる映画『顔役』も円盤化なり配信なりしてほしいところだ。