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THE LAST OF USのhiのレビュー・感想・評価

THE LAST OF US(2023年製作のドラマ)
4.8
聞いてはいたが、大傑作であった。
毎話毎話、こんなに面白いことがあるのか。

「菌類が地球を支配したら、人類は敗北するだろう」……冒頭のオリジナルシーンですごく引き込まれた。
本作は人間ドラマにかなり深く焦点を当てつつも、ゾンビホラーとしてのグロテスク描写も秀逸。
特に1話、ピントの合っていない後ろで老婆の口がありえないほど開いていくシーンはとても怖かった。
2話の冒頭の「取り返しがつかない何かが始まってしまった」感がひしひしと伝わるシーンもすごく良かった。
ジョエルの視点では見れないものが見れる、ドラマならではの演出がどれも面白い。

オープニング映像も良くて。
アコースティックで穏やかなテーマに合わせて、菌類の進撃の軌跡がまるで地図やネットワークや血脈のように流れていく。

莫大な予算をかけた美術の素晴らしさも見応えたっぷり。
人間が去った後の廃ビル群と群がる植物の美しさには毎度目を見張った。初めて外に出たときにエリーがはしゃぐのも無理はない。セットとCGの力の入れ具合にかなりの気合いを感じた。

もちろんキャスティングも素晴らしい。
主演2人(HBOの名ドラマ「ゲームオブスローンズ」出演者コンビでもあるが)がバッチバチにハマっている。
強くて頼り甲斐があるものの、傷ついた心を長年癒せずにいるジョエルにペドロパスカルを、強がってはいるもののまだ幼く、厳しい世界を目の当たりにして成長していくエリーにベララムジーをキャスティングしたのは本当に素晴らしい。
また、アナトーヴ演じるテスがタフでシビアで、かつ親切でとっても良かった。ジョエルの隣で共に生き抜いてきた女として、とても説得力がある。

特に印象深かったのは3話。神回と聞いていたが、想像以上に良かった。人類が権威を失ったパンデミックの世界で、確かに存在した出会いと愛と別れ。
中高年のゲイカップルの優しいロマンスが、本作のような世界的注目作でピックアップされると本当に嬉しい。
ゲームでのビルとフランクの結末とは大きく異なるが、“彼ら”が確かに生きていた証を見届けることができたのには大きな満足感を得られる。
3話ラストの風に揺れるカーテンのシーンの美しさよ。

4話で、ドラマのジョエルは良い意味でマイルドだなと感じた。
ジョエルは人生の大半を辛い思いをして過ごしているので、負の感情の蓄積で他人を思いやることを苦手としている。しかしまだ子供であるエリーへの態度がかなり誠実かつ適切なので、原作より好感が持てる。ペドロパスカルが演じるゆえの“らしさ”もあるのだろう。
震える声でエリーに自らの不甲斐なさを謝るジョエルと、その言葉と過去の記憶に涙するエリーのシーン、そしてその後のジョエルの対応に笑顔になるエリーのシーンも含めて、2人がとても愛おしくなった。

5話は悲しいヘンリーとサムの兄弟の話。
“敵”であるキャスリン側の事情も深く描写することで、争っているのは血が通った人間同士なのだということを強調する。
“子どもは今もそこらじゅうで死んでる”、“彼はどうせ死ぬ運命だった”、“死んだ人間に報いるにはどうしたらいい?”、…キャスリンのセリフが巡り巡って後の展開に効いてくるのが憎い。
噛まれたサムの患部に、自分の血を「薬だ」と塗りつけるエリーの行動。エリーだって、そんな方法では効くはずがないとは分かっていたはず。それでもあの行為をしたのは、サムを安心させたい、なんとかしてサムを救いたいという祈りの気持ちから。すごく切ない。
“I’m sorry.”というフレーズ、「ごめんね」以外も意味があるからこそ味わい深い。エリーからサムへの謝罪の意でもあるし、悼みの言葉でもあるし、約束を破った後悔の気持ちでもある……

6話も展開としては比較的静かだが、すごく良い回だった。
トミー相手に弱音を吐くジョエルが良い。
徐々に老いていくジョエルは、大事なエリーを守れるか自信がなくなっていくんだね。
原作ではここで諸々すったもんだがあるのだが、本作ではエリーが食い気味にジョエルを選ぶのが良い。ちゃんと「お互い一緒にいたい」が通じ合っており、テンポの鈍化や余計なストレスがなくドラマらしく展開する。
その後、ジョエルがエリーに荒野での生き方を教えていくのも良い。お互いの自立を助ける関係性の構築は、健全で好ましいよね。
あと、細かい描写だが、ちょいちょい生理用品が出てくるのが良い。たとえ世界が滅亡しても、女には1ヶ月のうち1週間は股から血が出る期間があるので。

7話はエリーの過去編がメイン。
エリーにとって、親しいライリーとの楽しいひとときが何より大切だったことがひしひしと感じられる。
3話の中高年ゲイカップルの描写も良かったが、若いレズビアンの描写も丁寧で良い。
エリーがこんな風に、好きな人と楽しく過ごせる夜がまたあれば良いのに。
「どうせなら一緒におかしくなろう」。
ライリーの言葉が、エリーが“そばにいたいと思う人”を自分の居場所として選択するきっかけになるのが脚本の流れとして美しい。
このライリーとのやりとりが、6話のエリーの即答にも繋がったんだろうな。ジョエルもエリーも、もう大事な人を失いたくないんだよね。

8話は、飢えを解消するために踏み越えなければいけない境界についての話。
この手の人肉食についての議論は数多の作品で語られてるが、デビッドの場合は神(もしくは父)の名の下に己の支配欲を満たしているというのが憎たらしい。エリーを手に入れられないと分かるや否や、凶暴性を剥き出しに追い詰め、挙げ句の果てにはレイプしようともする。本当に最悪。
エリーがその最悪の“父”であるデビッドを自力で倒し、本当に“父”として慕うジョエルとの再会を果たしたときの安心感よ。エリー、もう大丈夫だね……
ただ、ジョエルもエリーを救うためとはいえ、デビッドの仲間を惨たらしく拷問して殺害している。この世界において生死の境界線は、誰に対してもいつだって選択を迫ってくるのだ。

最終回である9話。
キリンのシーン、大好きだ。
寂しさゆえ病院に近づくにつれ無口になるエリーが、ジョエルと笑いながら過ごす大切な時間。ビル群に囲まれた空き地でキリンの群れが穏やかに暮らしているという絵も相まって、幻想的で美しく、原作でも印象深いシーンだ。

人類の命運か、エリーの命か。マーリーンを始め、多くの人々(なんなら我々も)は当然前者を優先すべきと思うだろう。ジョエル以外は。
エリーと過ごしてきた素晴らしい時間、そしてこれからの2人の明るい未来への未練が、ジョエルを突き動かした。そのために多くの命を奪い、さらに多くの命がこれから失われようとも。生死の線引きがジョエル個人に委ねられたゆえに起こったことだが、ジョエルにとっては、それが最善の選択だったのだ。

ジョエルの優しい嘘はエリーを苦しめるだろうが、むざむざ殺されるエリーを放って置けなかったジョエルの強い気持ちが確かにそこにあった。
きっと、エリーもそれは理解してくれるのだろう。
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