「普通」という言葉の持つ加虐性についてよく考える事がある。所謂「変わった」人たちが、マジョリティとされる事柄に自らを押し殺して迎合することの辛さは個人的にも凄く共感できる。そしてこれはパブリックな場だけではなく個人間の関係にも言える事で、「普通」という価値観があるせいですれ違いが生じてしまう事はよくある気がする。今作「ふつうの人々」は、こういった価値観の呪いのようなものを、静かでゆったりとしたテンポで丁寧に描く。映画的な映像作りだったり、役者たちのニュアンスで魅せる演技も素晴らしい。
その他見逃せないトピックとしては、Netflixの「ブリジャートン家」と並び、セックスシーンにおいてインティマシー・コーディネイターを導入した事も挙げられるだろう。映像作品中の性描写はしばしば女性搾取的なものになりがちだが、今作においてはあらゆる点でそうならないような工夫がされていて、セックスシーンを撮るということの本質的な意味にも気づけたような気がする。
日本においてはアクセスが少し面倒なこともあってイマイチ盛り上がっていないように思うが、見過ごされるのは勿体ない大傑作だと思う。
