ひでG

冬薔薇のひでGのレビュー・感想・評価

冬薔薇(2022年製作の映画)
3.6
映画の嗜好、評価は人によって違うから面白いんだけど、年末年始のベスト10みたいな並びを眺めると、人それぞれと思いながらも、心の奥の方で納得いかない気持ちが湧き上がることもたまにある?よね、、

それが日本で一番歴史のある映画雑誌「キネマ旬報」になると、WHY?を多発してしまうこともよくある。(映画雑誌と自分の評価が全く同じなんてないのだから仕方ないけど、、)

キネ旬のベスト10にはいろいろ特徴がある。
その一つは、クリント・イーストウッドや阪本順治らオーソドックスなヒューマンドラマが強い傾向がある。(名作の多いイーストウッド作の中でもさすがに衰えを感じさせた「クライマッチョ」が上位とは、、)

長々前置きを書いているけど、近年好調の日本映画、2022年も引き続き良作が揃った中、キネ旬第5位にランクされた本作。

正直、しょーじき、この評価は高過ぎると感じてしまう。
(やっぱり阪本作品に甘い?)

ひき逃げを起こしてしまい(不起訴)若手有望俳優から転げ落ちた伊藤健太郎のために阪本順治監督が書き下ろした本作。
阪本監督は伊藤健太郎と直接会って、彼の思いを聴き、制作と彼の出演を決断したそうだ。

阪本監督の日本映画や若手俳優への思いやりは敬服に値する。法に反した行為は断じて許されるものではないが、罪を償い、反省した後に、映画界に戻る道を、とそれを提供してくれたのだろう。

阪本さんは、伊藤にこういう役もやってほしいという思いで本を書いたと答えている。今回は、それまでイケメンで優しい好男子のつまらない?(笑)役が多かった伊藤が、真反対の超が何回もつくようなダメ人間を演じている。伊藤もそれに必死に応えていた。

さて、この映画は、小林薫、石橋蓮司、
余貴美子、伊武雅人と大ベテランが脇を固め、
堕ちていく(いや、ずっと上がれない)
伊藤演じる淳の生活と、ベテラン勢の深い心の傷(小林薫と余貴美子の夫婦など)や仕事を締めなくちゃいけない晩年の切なさを両立して描いていく。
阪本脚本・演出はそつなく、丁寧に進行していく。さすがだと思う。

ただ、どちらの道も閉ざされていて、光が全く見えてこない。
特に淳は本当に痛い。こんなに痛い若者はあまり見たことがない。特に倉敷に行くくだりは、「止めてくれ〜!」て、叫びたいくらい、
この若者の明日が見えない。一縷の光さえ見えてこない。
淳だけでない。ここに出てくる若者たちは
全く希望がない。
逃げて行ったあの男女も、もちろん刺されたあの男も、組織の末端で弱きものだけに虚勢を張るあの男も、、全員に希望の欠片さえない。
彼らは他人の心を思いやることが全くできない。常に世の中は自分を中心に回っている。本当に救いようのない愚かさだ。

ここまで絶望的にしてくれる阪本演出は、やはりさすが!なんだろう。

伊藤は、こんなどうしようもない男を懸命に演じた。これからどういう役者になっていくか、ここからどう進んでいくのか、
しばらくはアクの強い脇の役で力を貯めていってほしい。

「しなければならないことをするためには、しなくていいことをできるだけしないことだ。」
劇中石橋蓮司が伊藤に語る言葉だが、役を超えて大先輩からのエールに聞こえました。

さて、最後に、この映画がさらに絶望的に思えること。

それは、終末に淳を悪の道に誘う男を演じたのが、永山絢斗だということ。
永山絢斗は、伊藤健太郎よりさらに深い沼、大きな罪を犯してしまっていた。
大先輩や大監督がみんなで伊藤にエールを送っているこの現場に、薬物をしながら臨んでいたと思うと、この映画に感じた「果てしなき絶望感」に苛まれてしまう。

永山絢斗!君は今何を思う。

この映画をどう捉えていいのか、果てない絶望感。
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