猿橋

ダイ・ハードの猿橋のレビュー・感想・評価

ダイ・ハード(1988年製作の映画)
5.0
テレビ洋画劇場で見て以来30年ぶりくらいの再見のはずなんですが、こんな凄まじい映画だったのか…。

80年代底抜けアクション大作とは一線を画すリアルさが売りだったような記憶があったんですが、全然そんなことない。もう滅茶苦茶。なのに一本筋だけは通っていて、全てが「クリスマス」に収れんしていく。奇跡ですよこんなの。

舞台となるナカトミビル。あの内部構造がどうなってるのか、分かる人います? 上下左右の位置関係がどうなってるのかとか、制作者を筆頭に誰も分かってないと思う。現代のビルのはずなんだけど、むしろバロック建築? 増築を繰り返した温泉旅館(千と千尋みたいな)? 不思議の国のアリス? カフカの『城』? なんだあの金庫は! でも、映画っていうのは計算づくのモダン建築なんかじゃない、このカオスこそ映画なんだと教えてくれているかのようです。

ハンスの犯行計画も何が何だか。債券なんか盗んでどう換金するの? かの有名なプロットホール、その逃走用の車初めはなかったじゃん! ていうか、味方が殺されて減ったから良かったけど、初めの人数じゃ乗れないだろ! でもその程度の穴は実は序の口で、どこを取っても理屈を受け付ける余地がない。そのくせ、「妻がパタンと伏せた家族写真」みたいな細部には神が宿ってるんだから、もう頭がフットーしそう。

根底にはアメリカの精神たる西部劇がある(ヒッピカイイェイ!…であってましたっけ)。同時に『グランドホテル』であり『タワーリング・インフェルノ』であり、『ロッキー』であり『ランボー』であると同時に『ロッキー4』であり『ランボー 怒りのアフガン』であり、何と『クレイマー、クレイマー』ですらある。それらバラバラのはずの要素が「クリスマス」の名の元に奇跡のように1つになるという意味では『ラブ・アクチュアリー』でもあるけど、ごめんなさい、この多幸感は『ラブ・アクチュアリー』なんか目じゃないですね。あっちは「ラブ・イズ・オールアラウンド」程度ですけど、こちらは「第九」ですからね。歓喜の歌!

こんな映画狙って作れないし、現に制作者も幾多のフォロワーもまったく再現できていない。という意味では、こんな映画が出来てしまったこと自体がクリスマスの奇跡ですよ。

銃は撃てるけど妻への愛を表現できない男(「有害な男らしさ」!)と、妻への愛は躊躇なく表現できるけど銃は撃てなくなってしまった男が交差するラストに至っては、もう表現できる言葉なんかないです。
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