猿橋

悪は存在しないの猿橋のレビュー・感想・評価

悪は存在しない(2023年製作の映画)
4.0
主人公が薪を割る最初の長回し。木が計算どおり割れるわけないので、木の割れ方はいわば偶然任せというか、自然に委ねるしかない。この映画の長回しは「どこまでがフィクションで、どこからが自然のままなのか」という線引きの緊張感を生み出しています。どこまでが自然なのか分からないのは長回しだけじゃなく、たった1箇所生きている鹿が映るショットも、恐らく本物(たぶん)の鹿の白骨死体もそう。オカワサビもそうですね。都会と地元の論理の衝突を描く映画それ自体が、どこまでが自然でどこからが人工なのかという問いを発している。

役者の演技もそうです。演技然とした東京勢に対し、地元勢はどこか棒読み調。どこまでが演技でどこからが素なのか、その境界線は意図的に曖昧になっている。

その境界線を大胆に踏み越えるラストの展開が、果たしてどちら側に踏み越えたのか、あれは実際に起きたことなのか画面上に描かれた幻想なのか、判断できる材料は映画中にはありません。境界線を巡る問いは問いのまま、映画は終わっていきます。

ちょうど花ちゃんくらいの年齢まで、舞台になったあたりの村に住んでいたのでそういう意味で土地勘(?)の働く映画でもありました。終戦直後、満州から引き揚げてきた人たちが開拓したあたりなので、何代も続く家とかあるわけじゃなく、全員ちょっとよそ者っぽい感じとか。都会の論理対土着の論理の戦い、ではないんですよね実は。地元の側も別に土着ではない。

日本の「芸能界」との距離感というテーマはドライブマイカーと共通しているので、監督の目下の切実な問題意識なんだろうと思いました。介護業界から芸能業界に転職してきた黛さんが「芸能業界はクズばかりだけど、本物の人間って感じで嫌いではない」というようなことを言いますが、普通は逆じゃないですか。あの車中のやり取りがこの映画の本質を一番具体的に言葉にしてるのかもな、と思いました。

というような感じで感想がまとまらないうちに、忘れないように投稿しておきます。
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