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VORTEX ヴォルテックスのWNTのレビュー・感想・評価

VORTEX ヴォルテックス(2021年製作の映画)
4.0
先行上映、舞台挨拶付き鑑賞。

心臓に持病を抱える夫と、認知症を患う妻の高齢夫婦。
ふたりの人生最期のときまでを画面分割したスプリットスクリーンで捉える。

決まった台詞がなく、役者が自由に過ごすことで作られた映画。

演じたことがないダリオ・アルジェントが俳優に見えてくるところや、フランソワーズ・ルブランの役者としての凄みが引き出されていて圧倒される。

彼らは何気なく過ごしているはずなのに、私にはどんどんホラー映画のように思えてきて恐ろしかった。

自分自身も彼らと同じくらい歳を重ねたような気持ちになってくるところがこの映画のすごいところ。
死や老いに対する恐怖、施設に入らなければいけないほど収拾がつかなくなっていて追い詰められていく閉塞感、まだ大丈夫。自分たちはまだやっていけると心の隅で思っているところ。
いつか歳を重ねて高齢になることは誰しも通る道だけれど、実際にその年齢になってみないと分からない体験がこの映画には詰まっている。

同じ屋根の下で暮らす夫婦。
別々に行動して過ごす日常は平和とは思えない。
幸せだったのは始まってすぐだけで、あとは悪くなるばかりのふたりを見て悲しくなる。

認知症の妻は目を離すととんでもないことをしてしまい、心穏やかには過ごせない夫。
息子に迷惑をかけたくない、なるべく自分たちで生活をしたい、もしものことがあったら誰も助けてくれないなかでどうすればいいのか。

分割画面の使い方が面白かった。
ばらばらの生活を覗き見することができるし、ふたつの視点から観るストーリーが斬新。

感動する、悲しくなる点もあるけれど胸が押し潰されそうな閉塞感と老いに対する恐怖が増した。
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