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屋根裏のラジャーのしののレビュー・感想・評価

屋根裏のラジャー(2023年製作の映画)
3.2
子どもの想像力の賜物であるイマジナリーフレンドの視点で冒険ファンタジーを描くという試みは面白いし、2Dでも3Dでもない、絵本の世界が立体感を伴って動くようなアニメーションは素晴らしかった。しかし、マジカルなのかロジカルなのか分からない設定が没入を妨げるのが惜しい。

冒頭シークエンスからして超絶クオリティだし、アマンダがラジャーと雪山で遊ぶ場面など面白いアニメーションの見せ方がいくつも詰まっている。実写同様のライティングを施す陰影の付け方は、まさに想像の産物でしかないはずのイマジナリーに実在感を与える表現として機能していた。

ただイマイチ没入できずに客観で見てしまう印象があって、それは作品世界のルールの提示が中途半端だからだと思う。「この子の頭の中で起こってる出来事です」だけならシンプルだし、実際、冒頭で空想世界と現実での見え方のギャップを強調したりするのだが、ここがどんどん崩れていく。崩れるなら崩れるでいいのだが、それならどこかで「ここからイマジナリーが現実に侵食してきます!」みたいなイベントを設定したほうが飲み込みやすかった。ラジャーが一人で他のイマジナリーに出くわす場面とか、あれこれ今どういう事が起きてるんだっけ? といちいち現実との対応付けが気になる。

そういう対応付けなど気にせず、これは『トイ・ストーリー』的な「もしイマジナリーフレンドが自我をもって本当に動いていたら」という空想なのだと割り切ろうにも、見える/見えないルールや、イマジナリーの街のルールなど、対応付けを意識させる設定が連発するのでそれも難しい。また、あくまでアマンダという子どもの空想として描いているという前提で進行しておいて、中盤からは「子どもの空想の裏には実はこんなシステムがあって……」という『モンスターズ・インク』的アプローチに移行する構成も飲み込みづらい。ここにバンティングも加わり更に複雑になる。

クライマックスは、この本来別々のレイヤーの要素が一堂に会してしまう飲み込みづらさの極地になってしまっている。他の子に姿を変えられたラジャーの姿がアマンダにも共有されてるとか、彼女が「レイゾウコ」のことを知ってるとか、「はい考えないようにします」と切り替える作業がいちいち必要になる。

この際、その辺りを全部寓話として割り切って見ようにも、そもそもこれは何の寓話なのかが不明瞭だ。つまり、アマンダと母親は何と戦っているのか?

一応、なぜアマンダが空想に逃避するようになったかという背景は描かれる。これに対して、「母親がちゃんと彼女と向き合って現実を生きようとする、そしてその連帯を取り戻させる仲介者が想像なのだ」という構図でオチをつける事自体は良いのだが、それが構図にしかなっていない気がする。

彼女が打ち破る悪役のバンティングは、辛く苦しい現実に敗北させようとするいわば「想像にとっての死神」だが、そもそも物理的に瀕死になって想像が消えかかることって「想像力の危機」のイベントして適当なのだろうか。アマンダはよくある「自分が大人にならねばと背負いこむ子ども」だった。であるならば、そこに対して母親が「自分もかつては想像する子どもだったし、今でもアマンダと同じ傷を抱えているのだ」という連続性を示すことがドラマの着地として必要なはずだ。であれば悪役との戦いのなかでそこはちゃんと描いて欲しい。

バンティングという悪役にしても、振る舞い的には「現実の象徴」というファンタジー存在なのに、設定的には「移行対象からの卒業を拒絶し続けるかつての子ども」という対比構造をもった人物なので、なんともチグハグな感じがする。後者として描くなら彼のドラマが必要になるだろう。

また、ラストで「最後の冒険に」という台詞がアマンダの口から飛び出すのも唐突だ。彼女と母親が互いの傷を共有し、ラジャーという「移行対象」とやがて別れていくことを示唆する……くらいで良かった気がする。

斯様に、示したい構図しかないので、想像に溢れた豊かな映像とギャップが激しい。たとえば、モールの駐車場で戦いが発生するシュールな楽しさや、「本当の友だち」システムの楽しさ、大人がちゃんと子どもとの連続性を認識した上でケアしなければいけないという真っ当な筋など、要素で見れば大変素晴らしい作品になり得たのに、惜しいとしか言いようがない。

そして本作の「企画・脚本・プロデューサー」という肩書きとか、よくある「監督・原作・脚本」という肩書きとかもそうなのだが、そんなに何でも一人でやる必要ないのにと思う。とくに脚本はチームで練り込んでほしい。本作なんてまさに映像はいいのに脚本が……案件だった。ピクサーの凄さを再認識したと同時に、やはりスタジオポノックはここで終わってほしくないと改めて思ったのだった。

※感想ラジオ
【ネタバレ感想】日本のピクサー誕生のはずが?『屋根裏のラジャー』に見たポノックの可能性と不安
https://youtu.be/UKsCOySircg?si=QGBevLhTHOw1SxU5
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