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エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンスのaiueoのレビュー・感想・評価

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「マルチバース」や「タイムトラベル」あるいは「ループ」という設定はいまここのこの世界をどう肯定するかという倫理的な問いが生じるジャンルである。(バックトゥザフューチャーにはその問いが全くないが)

今作は、あらゆる物語を生きたがために生じる虚しさ、いわば相対主義的ニヒリズムとでも言うべきものにどう立ち向かうかが物語の中核をなす。

終盤、ニヒリズムに陥った母を救うのは「Be kind」、娘を救うのは「愛」で、
2段階の感動シーンになっている。
が、わたしは「愛」の方にはあまり納得がいかなかった。
というのも、相対主義者は愛も相対化してしまうからである。
いくつも人生があれば愛されることも愛されないこともある。それは単に偶然である。であるがゆえに「この愛」も単に統計的に「どこにでもある愛」である。
実際作中で娘は、「あなたの娘である喜びも悲しみも知っている」と言っている。つまり問題は愛されているかどうかという問題ではないのである。
それが終盤なぜか愛されることで気持ちが瓦解するという展開になっている。
この辺はいい感じのシーンなのでなんとなく誤魔化されるのだけれど、これでは単に母の愛を求めて暴れていたひとになってしまう。

もうひとつの「Be kind」はヴォネガット由来のものだと思うが、まさしくヴォネガット「ジェイル・バード」には「愛は負けても親切は勝つ」という一文があり、この2つを分けている。
それは「親切」が相対化できないからではないかと思う。なぜ「親切」が相対化できないかはわからない。
たぶんそれは、誰に対しても発動される「親切」というのは「愛」の上位概念だからで、というか、本当の愛は「親切」のことをいうからなのかもしれない。
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