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すずめの戸締まりのmoekoのレビュー・感想・評価

すずめの戸締まり(2022年製作の映画)
4.3
主人公は高校生の鈴芽。登校中にすれ違った草太に廃墟のある場所を尋ねられたのが、2人の出会い。草太に一目惚れし、また、草太の発言が気になった鈴芽も廃墟に向かいます。そこで目にしたのは、取り残されたように佇むドア、ドアの向こうの常世、ドアから現れたみみず、閉じ師としてみみずに立ち向かう草太の姿。みみずをドアの向こうに封じ込めた後、要石であった猫のダイジンにより、草太は椅子に姿を変えられてしまいます。そして、鈴芽と草太の戸締まりの旅が始まります。
はてさて、新海誠はとんでもない作品をつくりましたね。今までも君の名はや天気の子で天災について描いている部分はあったけど、今回の作品はその存在を中心に据えたものでした。地震大国である日本を舞台にスクリーンに映し出される景色は、過去の震災を彷彿とさせる神戸や東日本。まだその傷の癒えない日本を舞台に、日本人に向けて、そこに住む日本人の姿と地震の影が描かれています。つくる側も見る側も精神力を試される作品に仕上がっていると思います。
この作品では、災害とそれに伴う喪失と同時に、そこから這い上がる希望も描かれていました。喪失の部分はまさに、戸締りの時に聞こえる人々の声や見える風景。過去に無情にも消し去られた存在を感じ、涙が流れてきました。やはり喪失とは、例え自分がリアルに経験したものでなくても、喪失の存在を感じるだけで心が締め付けられるものです。希望の部分は、鈴芽や鈴芽が出会った人々の姿でしょうか。新海誠は「かつて大きな災害に遭ったが、それを乗り越え、ごく普通の生活を送っている人たちと鈴芽を出会わせたかった」と話しているそうです。鈴芽は癒えない傷を抱えて生きる現代の日本人そのもので、その鈴芽に伝えられ、また、最後には鈴芽自身も語る「あのときはつらかったけど、今は大丈夫」「きっと笑っているはず」というメッセージの力強さと言ったら。喪失から懸命に立ち上がろうと前を向く人々の姿は、涙無くして見られるものではありませんでした。また一方で「また繰り返すね」と無邪気に言い放たれたダイジンの一言は、それもまた日本人の心の中にある諦めや無常感のように感じられました。希望だけではなくダークな部分も描かれている点にリアリティを感じます。
もちろん新海誠作品なので、過去作同様に風景の美しさはピカイチ。その絵で蘇る過去の風景や、今の日本の姿は、作品のメッセージをより強く伝えていました。今までの作品の中で新海誠の絵が最も威力を発揮したのではないでしょうか。素晴らしかったです。
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