雷電五郎

すずめの戸締まりの雷電五郎のレビュー・感想・評価

すずめの戸締まり(2022年製作の映画)
4.0
直截的な言及はありませんが東北大震災が物語の始点であり終点で地震大国である日本の実情と和のファンタジー要素を絡めてテンポのよい話に仕上げていて面白かったです。

ミミズは竜脈、ダイジン達は各地の伝承などにある地震(≒荒ぶる神)を鎮めるための要石(地震を起こす大鯰を鎮めるために上に置かれた巨大な岩石等)ではないかと思います。

実際にあった震災を題材にした以上、相応に否定的な感想もあったと思います。
緊急地震速報は作中で音が変えてあっても聞くたびに冷や汗がにじむくらい怖く、私も地震という間近にある恐怖を再確認させられたような気持ちにもなりました。
ですが、それだけではなく「どうかすべての人々が一日でも長く平穏に過ごせますように」という祈りも同時に感じます。
自然が起こす天災の前に人間はなす術もありません。人は大自然を制御することはできないからこそ、どうか少しでも永くと平穏を祈り願う。神社で手を合わせて祈る時のような「どうかどうか」という切実でありきたりな願いの尊さを感じさせる話でもありました。

正直、東北大震災は被災とまではいかないまでも家を失うかもしれないという恐怖を味わった震災でもあり、後々の報道で震災後の映像を観てこれ程までに人の営みは脆いのかと絶望を感じた出来事で、最後の後ろ戸から入った際の火事の光景は震災直後を想起させてとても辛かったです。
すずめが1人取り残され母を探してさまよう姿も、度重なる各地の震災で何人の子供が同じような境遇を味わったのかと思うと他人事とは思えず、悲しい辛い以前になんとも言えない気持ちになり涙が止まらなかったです。

「どうか」と願うささやかな祈りの先に大切な人の平穏を守ってほしいという誰しもに通じる感情が美しい映像とあいまってストーリーとうまく噛み合っていて、映像美が物語のために果たす役割の強さを感じられる映画でもありました。シンプルで展開もとんとん拍子なので一気に見れます。とても面白かったです。

草太が椅子の状態でいた方が身体能力が高いのは笑いました(笑)椅子がパカラッパカラッと走る姿、馬みたいで可愛いですね。
あと、新幹線に乗った時の東京住みの草太と九州住みの鈴芽の温度差にも笑いました。
比較的地震が多い東と少ない西で要石たる神獣(?)の大きさが違うのもなんとなく分かる気がします。
会話や展開が重すぎず笑える部分もあるのは救いでした。

優れた映像美によって、人の営みを思う実感としての美しい空気感が描写されており、この作品においては映像が物語の実感をより身近に感じるための役割を存分に果たしていたと思います。

氷の中に長い年月閉じ込められていた白の要石ダイジンが鈴芽の優しさに触れて石に戻りたくないと望んでしまうのも、なんだか分かる気がしました。
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