雷電五郎

ダムゼル/運命を拓きし者の雷電五郎のレビュー・感想・評価

ダムゼル/運命を拓きし者(2024年製作の映画)
4.3
極寒の中で日々糊口をしのぎながら生きる辺境の国の姫君・エロディ。
冬を越すには物資が不足した窮状の最中に突如として大国から縁談の話が舞い込む。領民を助けられるならばと縁談を受けたエロディだったが、実は大国アウレアの王族の代替として小国の姫をドラゴンの生贄とするための偽装結婚だった。
というあらすじです。

シンプルな設定のファンタジー世界でありながら王侯貴族にありがちな権威のための結婚を「犠牲になるための結婚は誰も幸せにならない」と否定し、エロディが苦境の中で死んでいった姫君の名を見つけ逃げ抜いて生きることを決意する「自身が生きると決め生きるために抗い続けること」、そして、大国の傲慢と欺瞞により身代わりの生贄に捧げられた女性達の無念を晴らし「権力による犠牲を決して肯定しない」、以上がこの作品の根幹にあります。

冒頭の語りにある通りこのお話に守られる姫は存在しません。エロディだけでなく生きるために足掻き続けた女性達の物語です。

そして、己の間違いに気づき権力や地位よりも子供の命を選んだ父親の贖罪も合わせて描かれ、同時に騙され続けていたドラゴン(彼女は雌)も正しく復讐を成し遂げ信じるに値する友を得て復讐から解き放たれるという展開がよかったです。
ただ悪を体現した存在としてのドラゴンではなく彼女もまた騙されていた一人の女性なのです。

ボロボロになろうが泥まみれになろうが抗い生きようとするエロディの力強い眼差しがどんな華美な映像よりも美しいです。こういった作品がフェミニズムと言うのではないでしょうか。そして、いわゆるザマァとしても「よくやった!!」としか言えないラストが最高でした。
アウレア国全員万死に値しますよ…

自身の地位や権力を娘の命と天秤にかけ、仕方がないと割り切ってしまう実父よりも、アウレアの王妃に蔑まれていることを見抜きエロディの結婚に疑念を抱く継母の存在も素晴らしく、小言はうるさいかもしれませんがこの流れを見れば彼女が心からエロディ達を心配し大切にしていることが分かり、最後に彼女を「ステップマザー(継母)」と呼び続けていたエロディが「マザー」と呼ぶのも互いの信頼が確かなものに変わったことが理解できて非常に良かったです。

また、真実を知り復讐を果たしたドラゴンがエロディ達とともエロディ達の国へ随伴するラストもよかったですね。
殺されてしまった子供達の復讐に囚われていた彼女をただ倒すのではなく癒やし真の復讐を遂げさせたことでドラゴンもまた呪縛から解き放たれ新しい生き方を選ぶことができた。エロディ達の国は寒いのでドラゴンにはちょっと厳しいかもしれませんが、今度は人々と仲良く暮らせるといいなぁということを考えてしまいました。

ビジュアル面でも素晴らしく、ドレスや宝飾品、城の全容なども美しかったですがドラゴンの洞窟でエロディが遭遇する青白く光る虫や音を発する水晶の崖なども非常に幻想的でワクワクしました。
可哀想ではありましたが炎に焼かれながら飛び出してくるコウモリの描写も衝撃的でしたし、ドラゴンのファイアブレスが溶岩のようにドロリとエロディに迫る描写なども観ていて楽しかったです。

とても面白く、またテーマがはっきりとした素晴らしい作品でした。
強く生きる力に満ちた姫は格好いいですね!
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