カズオ・イシグロ版「生きる」。黒澤明リスペクトが伝わってくるリメイク作品だった。一番の改変は原作にはいなかった新人職員ウェイクリングを登場させていること。黒澤版はどちらかというと痛烈な社会批判が大きく目立つ作品だったのに対し、今作では人間の生き方に軸足が置かれていた気がする。子供の頃に憧れた英国紳士として自分は振る舞えているだろうかと自問する公務員ウィリアムズ。そして死期を悟り最期の仕事に邁進するウィリアムズの姿を目撃する新人職員ウェイクリング。彼が後に手紙を受け取り回想するという原作にはなかったシーンが挿入される。いつかは忘れ去られてしまうことでも、自分が充足できるならばそれでいいのではないかというカズオ・イシグロの哲学が伝わってきた。
黒澤版の方が重厚だし、”ハッピーバースデー”からの畳み掛けが流石すぎるから(そういえばこの演出はカットされてたね)、それと比べてしまうと今作はこじんまりして地味な印象は否めない。しかしまあ主演のビル・ナイがとにかく格調高くてカッコいい!彼の立ち振る舞いが映画全体を底上げしていたように思う。