うめまつ

エンパイア・オブ・ライトのうめまつのレビュー・感想・評価

エンパイア・オブ・ライト(2022年製作の映画)
4.2
海辺の古き良き映画館。まだ薄暗い朝、出勤した従業員の女性が次々に灯りを灯して行く。ガラス張りの広い入り口。真鍮製のドアフレーム。褐色の絨毯。中央に八角形のポップコーン売り場。見上げるとレトロなシャンデリアがある。この開始5分にも満たない辺りでもう抗えないほど好きだ。この映画館の屋根裏にこっそり住んで夜な夜な一人で徘徊したい。(犯罪です) それが無理なら従業員のお仲間に加わりたい。そしてハリーと何とかしてお近づきになって映写室に入り浸り、映画の切り抜きをこっそり増やしたり、差し入れた紅茶に「こんなの飲んでるの、わかってないね」とかグチグチ文句言われながら映画の蘊蓄聞いたりしたい。それにしてもみんなポップコーンこぼし過ぎじゃない?毎回『トゥルーロマンス』ごっこやらないとあぁはならなくない?公共の場は綺麗に使いましょうね。

ヒラリーの孤独が身に染みてかなりキツイのだけど、特に泣くのが下手なところ(演技が上手いという意味です)は胸が詰まった。1人の時間が長いと人前で泣く事もないので、大人になっても子供のままの泣き方なんだよね。ヒラリーには今すぐ抱きしめられるあたたかくてふわふわの生き物が必要なので、保護猫サイトのURLを送りそうになった。(後先考えずに無闇に飼っては行けませんが。。) ただスティーヴンとの関係は恋愛を通さなくても良いように感じた。私の恋愛メーターが故障しているせいもあるけど、二人が恋に落ちるまでがちょっと性急に感じたし、年齢も性別も境遇も違う者通しの心が通じ合って、名前のない関係性で結ばれる方が好みではあった。当然ヒラリーへの羨望の気持ちは多大にある。

鳩の手当て/廃墟になった最上階/屋上の花火/裸ん坊と砂の城/大音量のレコード/1秒24コマの光/人生とは心の在り方

広い画角で切り取られた世界は寂しいくらい美しく、潮風は過去を錆びつかせながら常に真新しい未来を運んで来る。それを郷愁と呼ぶのか新化と呼ぶのかは受け手に委ねられるけど、確かなのは去年はもう生き返ることはなく、私達にはまだ死ぬまで踊れる命があるということ。
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