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ティルのkissenger800のレビュー・感想・評価

ティル(2022年製作の映画)
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2020年のUSオープン(8/31-9/13)は1月に発生した新型コロナの影響下、無観客で開催され、黒地に白ヌキで人名を書いたマスクを着用してコートに現れた大坂なおみに注目が集まりました。
……覚えてる? 4年前のことでしかないので、俺ぐらい鮮烈に覚えているひとがいてもおかしくはないと思うんですけど。

初戦8/31のマスクに名前があったブレオナ・テイラー(=自宅で寝ていただけなのに警察が誤って侵入してきた挙句、流れ弾8発に当たって落命。ちなみに発砲した警官3人中2名は不起訴、起訴された1名の罪状は「隣人を命の危険に曝したから」)は2020年3月に亡くなり、2戦目9/2に名前が書かれたひとは2019年8月、3戦目9/4のひとは2020年2月、それぞれレイシズムの犠牲になっていて、そうか、そういうことね。
と思っていたら4戦目9/6トレバー・マーティン(2012年没)、5戦目9/8ジョージ・フロイド(同2020年5月)、と「ビッグネーム」が続いてスポーツ界の枠を超えおおげさでなく全米が注目しはじめ、やー今でも思い出せるよ、これ途中で負けられなくない? ファンとして胃が痛くなったの。

でね、7戦、用意していたすべてのマスクを使い終え2度目の優勝を飾ったころにはモハメド・アリの現役時代ってこんな感じだったんだな、と思えるぐらいには時代のアイコンとして輝くわけですけれど(何に衝撃を受けたかって自分の娘とあんまり変わらない23歳の、ものすごくシャイな性格を前々から知っていた若者が「声をあげる」に要したであろう勇気の総量です。赤の他人なのに想像するだけで涙が止まらないほどのストレス)8枚目のマスクとして彼女がプレゼンテーションしたのがエメット・ティルだったんです*。安心してください、おじさんはここまでずっと映画に関係ある話をしてましたよ。

なおみ姐さんが言っていた通り(検索してそのひとの人生を知るひとがひとりでも増えればいいと思って)検索してエメット・ティルのことを知った者としては、この映画をスルーする選択肢はなかったんですよね。
なおロジャー・グンヴァー・スミスが相変わらず数分しか出番ないけど良い貫禄だったことも付言せずにはいられない。

*Vogue, 2021年1月号
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