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TAR/ターのkabcatのレビュー・感想・評価

TAR/ター(2022年製作の映画)
4.2
158分の長尺、そして冒頭の至極ゆっくりとした進み方から耐えられるか最初は不安だったが、中盤からサスペンス感が次第にじわじわと盛り上がり、ケイト・ブランシェットの圧倒的な演技もあり、結局時間的な長さを感じることなく観終わった。

高い芸術的目標に到達すべく常に緊張状態が続くなかで、主人公が次第に精神の均衡を失うストーリーは『ブラック・スワン』を思わせるが、抑制的な撮り方とあの終わり方で、アロノフスキー作品のマンガチックな世界とはまた違い、洗練された作品世界となっている(どちらかの方が優れている、という意味ではない)。

また物語には「確証」というものが提示されず、私たちは映像から想像するしかない。絶対的な権威をふりかざすリディアが返り討ちに合う話とも、芸術至上主義の彼女(何度かアナグラムのエピソードが出てくるが、自分の名前をTARにしたのは、まさにARTのアナグラムだからではないか?)が何が起きようともその信念を貫き通す話とも、かつ彼女の妄想世界のなかだけの話とも、さまざまな解釈が可能であり、それにより悲劇にも喜劇にも見える。それがモヤモヤする人もいるかもしれないが、観る者に全面的に作品を委ねるこのスタイルは結構好きだった。最初のゆったりした時間の流れと終盤の時間の極端な端折り方の落差も面白い。

キャストは‥最初に述べたとおり、何と言ってもケイト・ブランシェットの演技に目を奪われっぱなし。冒頭の自信に満ち溢れた姿から終盤のどん底に落ちた成れの果てまで、彼女はTARそのものだった。シンプルでマニッシュな服を着こなす姿もカッコよく、ますます惚れました。『燃ゆる女の肖像』のノエミ・メルランが出ているのもうれしい。
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