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オッペンハイマーのkabcatのレビュー・感想・評価

オッペンハイマー(2023年製作の映画)
3.7
IMAXで鑑賞。まずは音響の凄さに驚かされるが、むやみに大きな音ばかり聞かせるのではなく、音のない場面も多い。そのクライマックスがトリニティ実験のシーンであり、スリリングな過程を大音響と無音を効果的に用いて描いている(なのでサントラが余計に思えるシーンも多い)。

一方で物語は意外と法廷劇(というか査問会劇)で、人物が座って話している場面が非常に多く、動きがあまりない。その停滞感を打破するためか、2つの査問会が交互に描かれるうえに、オッペンハイマーの過去のエピソードも盛り込まれており、そのために登場人物が非常に多くて整理するのに一苦労する。その複雑な構成はこの監督らしいが、セリフでの説明も多くあまり効果的とは思えなかった。

ただ論議の的になっている広島と長崎の描写の欠落については、この物語は原子爆弾の誕生がテーマではなく、(爆弾が完成してからさらに1時間も映画が続くことからもわかるように)オッペンハイマーがいかに科学者から政治家になり、周囲の人々と確執が生まれていくかという人間関係に重きが置かれているので、あまり気にならなかった。

(そもそも最初から爆弾投下を肯定的には捉えておらず、被害についてもセリフの形ではあるがかなり具体的に伝えており、その後のさらに強力な爆弾開発についてのオッペンハイマーの批判的な態度もしっかり描いていたのだから、何で公開にこんなに時間がかかったのかよくわからない)

結局のところ、今回監督の相当な意気込みを感じるのだけれど、ノーラン作品として見るとあまり成功していないように思う。やはり伝記映画は難しいですね。もっとオリジナル脚本でがんばってほしいです。

オスカーを受賞したキリアン・マーフィーとロバート・ダウニー・Jr.に目が行きがちだが、個人的には脇役の豪華さに目を奪われた。チョイ役だが存在感抜群のラミ・マレックとゲイリー・オールドマン、久々にスクリーンで見たジョシュ・ハートネットやケイシー・アフレックだけでなく、マシュー・モディン、トム・コンティ(『戦メリ』のMr.ローレンスがアインシュタインに!)など自分の世代には嬉しくなるようなラインナップでした。

ただフローレンス・ピューは好きな女優さんで、大胆な役も厭わないのはわかるのだがああいう形での出演はどうなの?と気になってしまった。彼女に対する演出は過剰であまり必要性を感じられませんでした。
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