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Hereのkabcatのレビュー・感想・評価

Here(2023年製作の映画)
4.2
「スープを配る人の話」ぐらいしか事前情報がなかったので、ずいぶん思っていたストーリーと違っていた。15時からの上映だったこともあり、静かな調子で進む前半はついウトウトしてしまったが、2人の男女が出会うあたりからとてもいい感じになり、終盤女性がふっと浮かべるうれしそうな表情を見る頃には、こちらも同じく幸福な気分を味わっていた。終わり方もハッとさせるすばらしさで、観た後に「何かよかったなあ」とじわじわと思い返される作品だった。

16mmフィルムでの撮影、5:4のサイズ、そして長回しがあったかと思うと、大胆な時間の省略があったりして、何か不思議な夢を見ているような気持ちにさせられる。ただその不思議さはこちらの解釈を拒むようなわけのわからなさではなく、何かこちらにあたたかいものを残してくれるようなものであり、男性が配る「スープ」はその象徴に思えてくる。

主演の2人が雰囲気のある人たちで、この世界観にしっくりなじんでいる。撮影もすばらしく、森の中や苔のアップなども印象的だが、雨の中華総菜店のシーンが特に好きだった。タイトルやエンドクレジットの見せ方もすごく好きだ。

バス・ドゥヴォス作品は初見だったが、ケリー・ライカート、ダミアン・マニヴェルそしてアピチャッポン ・ウィーラセタクンなどに通じる空気を感じ、今後も注目したい。『ゴースト・トロピック』もぜひ観たいです。
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