このレビューはネタバレを含みます
『ザ・ホエール』と二本立てで観た。
画の作り込み、センスがとても好みで、ストーリー自体が割と静かに進むんだけれど、すごく心地よかった。
のですが、
途中から不穏な流れに。
いえ、実は初めから不穏ではあった。
女性指揮者のリディア・ターは世界的な名声がある。妻と娘とのベルリンでの生活、フィルでの活動、プライベートジェットでニューヨークとを行き来し、極めて多忙ながらも、すべてを手に入れていた。
が、この作品の中には初めから彼女を脅かすものが差し込まれている。
こっそり機内の姿を撮られ、それについてのコメントが誰かの携帯でやり取りされている。
ジュリアード音楽院でのクラスレッスン、ある学生との対立。
かつて自分のもとで腕を磨いていた若い女性指揮者の訃報と彼女にまつわるメール。
娘をいじめる同級生への忠告。
部下の指揮者をポジションから外すこと。
寄り添うようにしていたアシスタントの心変わり。
新しいチェロ奏者との出会い。
何か不穏なものが通奏低音のように、彼女の華々しいキャリアの陰に蠢いている。
本当に完璧な存在を体現しているブランシェット。
それだけ彼女の転落劇は衝撃的だし、その後の姿を見て、胸がざわついたままおさまらなかった。
完璧な男性が転落する→そして這い上がる、というストーリーは想像しやすいのだけれど、完璧な女性が踏み外した時というのはなかなか厳しいものがあると感じてしまい、暗澹たる心持ちになった。最後のシーンは彼女にとって再生になるのか、転がっていった先の惨めな姿なのかは観る人によるんだろう。
この監督、撮影監督の画作りと、余計な音のないところが気に入りました。ちょっと他の作品も見てみたい。