Smoky

TAR/ターのSmokyのレビュー・感想・評価

TAR/ター(2022年製作の映画)
4.3
普段、無意識・無自覚に働かせている通念や常識といったものが根底から揺さぶられる力作。音楽に関わる人間模様やハラスメントを描いていることから『セッション』と比較する声もあるけれど、あれは共依存の関係を描いた単なる胸糞映画であるのに対して、本作は観る人の性別や立場、経験や状況によって様々な解釈を残している。
  
(そこは真似しなくていいのに)師匠であるスタンリー・キューブリックばりの寡作監督となってしまったトッド・フィールドによれば、ジョン・アクトンの名言である「権力の腐敗」を描いた作品だそうだ。本作で描かれる「権力」とは競争によって手に入れた社会的なものに限らず、人間関係の構造的な非対称性によって得た立場の優位性も含まれている…と解釈。その立場にいることによって芽生えた出来心、慢心、虚栄心、保身、至上主義、意図する/しないに関わらずそれによって引き起こされた他者への影響に無自覚であることの代償。
 
擁護もなく、断罪もなく、もちろん説教臭い正解もない。誰しもが身に覚えのあるテーマを扱っているが、突き放された視点で描かれている。「心を持ってかれる映画」という意味では『JOKER』に近いのかもしれない。ケイト・ブランシェット様の色白さ、彼女の着る燕尾服のシャツの白さ、自由に舞う指揮棒の白さ、音もなく進むポルシェタイカンのボディの白さ…。音と映像の美しさも堪能。
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