Smoky

アメリカン・フィクションのSmokyのレビュー・感想・評価

アメリカン・フィクション(2023年製作の映画)
4.1
ステレオタイプにリアルを見出そうとするバ◯、良心的であろうとするが本質的には何も分かっていないお花畑、ポリコレを掲げることで免罪符を得ようとするリベラル…。本来、差別問題とは、差別する側の問題でしかないのに、なぜか差別される側がそのコストを払わされる。そのコストは、単なる不利益に止まらず、被差別者がステレオタイプを内面化することで利益を得て、結果的にステレオタイプを固定化してしまう皮肉も含まれる。
 
本作を観て思い出したエピソードがある。その昔、演奏技術を売りにするロックバンドがアルバムを完成させたが「売れる曲が入っていない」というレコード会社の評価にブチ切れ、会社の食堂で3分で書いた曲を追加収録したら、それがバンド最大のヒットシングルとなり、その印税のおかげで今でも食っていける…。
 
この可笑しくも悲しいエピソードの意味するところが、本作のテーマだと思う。主体と客体、当事者と傍観者、自覚的な行為と無自覚の行為。結局のところ、人間の社会や文化というものは、この6つの要素の掛合わせで形成されるのではないか。本作は、人種問題に端を発してはいるが、そういった根源的なところまで掘り下げられた物語。
 
主人公は黒人ではあるが、裕福な医者の家庭に生まれ(マイルス・デイビスと同じ。ちなみに主人公はセロニアスという名から「モンク」という愛称で呼ばれるw)大学教授であるが故に、同胞のフッド文化を小馬鹿にし、不仲だった父母によって引き裂かれた兄や妹の気持ちを理解できない構図は、本当の意味で黒人を分かっていない白人のそれと同じ。
 
こうしたメタ構造や入子構造がふんだんに盛り込まれているのも本作の面白いところ。原作小説の映画化だけど、こうした構図による作りは、映像だからこそ伝わりやすい。アカデミー脚色賞受賞も納得。
 
いつだって、気付くのは足を踏んでいる側ではなく踏まれている側。この映画の構図のように、誰かの足を踏んでいると非難している人もまた、別の誰かの足を踏んでいる可能性だってある。自らの考えや立場についてどれだけ自覚的でいられるか?(客観視出来るか?)が大切…そうやって前に進んでいくしかないのだ。
 
Smoky

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